踏み込んだなら、最後。
「千石くんのことは…、私のほうが2人より知ってるよ。そんな人じゃないってことも、私のほうが知ってる」
手作りのお弁当を心から喜んでくれて、一緒に帰ってくれて、妹や弟たちとも仲良くしてくれる。
施設育ちだと言っても偏見で見ることは一切なくて、彼は自分の家庭事情も私に話してくれた。
「…ごめん。そうだよね、由季葉がそう言うなら…そうだよね」
「人違い……だったのかも。…ごめんね由季葉」
急に性格や人格が変わってしまうことは珍しいことじゃない。
他人にぜんぶを見せることができる人間のほうが少ないと私は思う。
だとしても千石くんはきっと、ずっとそばにいた存在を簡単に捨てることはしないよ。
だれかと違って、そんなことぜったいしない。
「真澄くんが0(ゼロ)っていうグループの主要メンバーだって話、あたしら聞いちゃったのよ───…」
そんな友達の声は、私には聞こえていなかった。
その組織の名前すら、無知すぎた私は何ひとつ知らなかったのだ。
0─ゼロ─、
それは游黒街とも関わっていると噂が立つ、力を持った暴走族グループだということも───。