踏み込んだなら、最後。
あなたが知らない世界に行っちゃったみたいで寂しくて、でも今はもう、ただ生きていてくれればいいなって。
笑って過ごしてるなら、もうそれでいいって思えるようにはなった。
「大丈夫だから眠りな。今はしんどいだろうけど、もう少し寝たら良くなるよ」
「……やだ」
私の頬を撫でてくれていた手を、ぐっと掴む。
力なんかまったく出ないけれど、ぎゅうううっと精いっぱい握ってまでも。
「寝たら行っちゃうから、やだよ……っ」
この夢、消えちゃうでしょ。
おなじ夢をまた見られることって奇跡みたいなものなんだよ。
小さな頃、よくそうだった。
お父さんが出てきたとき、嬉しくて嬉しくて、思わず目が覚めちゃって。
すぐにまた寝て、おなじ夢の続きを見たいと願いながら目を閉じるんだけど。
見れたことなんか、1度だってなかった。
「…なら、ぜったい忘れなくしてやろーか」
ぎしっと、音を立てたベッド。
加わったその重ささえ愛しいと思ってしまう。