レンタル姫 ～国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される～

６ お務め当日の不可解な出来事

　とうとうお務め当日を迎えてしまった。
　絶望感にさいなまれて一睡もできなかったノツィーリアが自室でうちひしがれていると、昼すぎからぞろぞろと部屋に踏みこんできたメイドたちに湯殿に連れられて、花びらの浮かべられた湯に浸からされた。お務め自体は夜の予定だったが、早めに準備に取りかからせるあたりにも父王の熱心さがうかがえて、容赦なく心を締めつける。

　湯から上がれば今度は寝台に寝かせられて、全身に香油を塗られてマッサージまで施される。嫌がらせで痛めつけてくるものかと思いきや、父王の命令なのか誰一人としてノツィーリアに乱暴を働くメイドはいなかった。とはいえ渋々やっていることは明白で、その顔は完全な無表情か、もしくはふてくされた表情をしていて、ときおり『めんどくさ……』というつぶやきや、舌打ちすら聞こえてきた。
　とはいえノツィーリアの長い銀髪も丁寧に解きほぐされていき、甘い花の香りのする油を薄く表面にまとわされた。

　ずっとメイドたちを警戒していたノツィーリアは、いよいよ化粧を施される段階に入って今度こそいじめが始まるだろうと身構えていたものの、肌の色に合わないおしろいを塗りたくられることもなく、眉墨も頬紅もそして口紅もごく淡く塗られただけで、鏡の中には若返った母を思わせる健康的な女性が現れた。

（お化粧って、こんなに印象が変わるのね……）

　十代の頃に一度だけ、メイドたちに弄ばれて似合いもしない化粧を施されたことがある。肌になじまないおしろいを塗りつけられて、顔のすべてのパーツを無駄に強調した無様な出来栄えに、必死にその場から逃げだして泣きながら顔を洗ったことがあった。

　苦い記憶を思い出す間にも鏡台から立ちあがらせられて、姿見の前でバスローブを脱がされて寝衣をまとわされる。控えめな美しさのイブニングドレス風のそれは、滑らかな生地でできていて肌触りがよかった。
　床まで届く丈の寝衣を身に着けおわって鏡の中の自身を見た瞬間、かっと顔が熱くなった。生地が透けていてほとんど肌を隠せておらず、穿かされたショーツも形がわかるほどで、柔らかい素材であるせいで胸の形がはっきりと出てしまっている。