レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~

7 賓客との対面

 上機嫌な様子で客の元へと向かうディロフルアにノツィーリアは食い下がった。

「いきなり私と交代するなんて、そんなことお父様は許してくださるの?」
「当然ではありませんか! お父さまがわたくしのすることに異を唱えるなんてありえませんわ。わたくしのことをとーってもかわいがってくださってますもの」
「ユフィリアン様には話を通してあるの?」
「彼は見た目がわたくし好みだからこそ婚約して差しあげたのであって、伴侶としてはつまらない男なんですもの。結婚前だからなどと言って抱きしめてもくださらないのですよ? 古風な考えはおやめなさいなと言ってもそこだけは曲げてくださいませんの。あんな奥手なあの人より、もっと惜しみなく愛情を注いでくれる殿方がわたくしには必要なのですわ」

 金で買った相手に惜しみない愛情を注ぐ人などいるのだろうか――。浮かんだ疑問をぐっと飲みこみ、思考を巡らせる。
 妹のわがままが通れば私はこの窮地からひとまずは救われる――。とはいえ五百万エルオンで締結された契約を、妹の身勝手な思いつきで変更してしまってよいものなのだろうか。
 迷ううちに客室の前に到着してしまった。


 張りきった様子のディロフルアに続き、怖々と室内に足を踏みいれる。
 居間を過ぎ、寝室へと入るとまず天蓋付きの立派なベッドが目に飛びこんできた。
 そしてそこには、ベッドの派手な装飾に一切見劣りしない美丈夫が腕組みして座っていた。
 足首までの長さのあるバスローブ型の寝衣を身にまとい、その上から上等なガウンをまとったその男性は、健康的な浅黒い肌をしていた。
 芸術品と見紛うほどの美しく彫りの深い顔。ゆるい曲線を描きだす短い黒髪は艶やかで、なにより赤い瞳から繰り出される眼光が鋭く、その視線で貫かれた瞬間、妹と揃って固まってしまった。

(一番初めのお客様って、リゼレスナ帝国のルジェレクス皇帝陛下だったの!?)
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