レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
十一年前はディロフルアはまだ九歳で、王国の法律では公務に出かけられる年齢ではなかった。しかし外国に遊びに行きたいという理由で駄々をこねて山向こうの国で行われたその式典に連れていってもらっていたことはノツィーリアもよく覚えている。
招かれた客ではなかったのだから、挨拶すらさせてもらえなかったのも当然だろう。
床に視線を落として当時のことを思い出していると、妹のうっとうしげな声が聞こえてきた。
「お姉さま、いつまでそこにいらっしゃるおつもり? さっさと出て行きなさいな! それとも結局お姉さまも素敵な殿方がお相手であれば抱かれたいと、そう思われていらっしゃるの? 偉大なるリゼレスナ帝国皇帝陛下を前にしてなんと身のほど知らずな。清楚なふりしてその実浅ましくていらっしゃる。血は争えないですわね」
(お母様を侮辱しないで!)
憎たらしい笑顔を叩いてしまいそうになった手にぐっと力を込めて、手のひらに食いこむ爪の痛みで冷静さを取りもどす。
いつもならここまで妹のあおり文句に反応などしないのに、いつまでも賓客を待たせているという不安、そして媚薬を飲まされて熱に侵されているせいか簡単に心が揺らいでしまう。
(だめよ、みっともなく声を荒らげては。激情に駆られてはいけないって、お母様がおっしゃっていたもの……!)
奥歯を食いしばり、握りしめた手に力を込め、何度も肩で息をして辛うじて怒りをやり過ごす。
感情を抑えこむノツィーリアを見てディロフルアがふん、と鼻で笑った。
「まったく、いつまで食い下がるおつもりなんですの? ルジェレクス様はあきらめなさいな。きっとお姉さまのことだから、ルジェレクス様にうまいこと取り入って、めとっていただこうなんて画策していらっしゃったのでしょう?」
「私はこの国の役に立てるならばと覚悟を決めて参ったのです。そのような浅薄な思いでこの場に臨んではおりません」
ノツィーリアは客人に向きなおると、体の前で両手を重ねて深々と頭を下げた。
招かれた客ではなかったのだから、挨拶すらさせてもらえなかったのも当然だろう。
床に視線を落として当時のことを思い出していると、妹のうっとうしげな声が聞こえてきた。
「お姉さま、いつまでそこにいらっしゃるおつもり? さっさと出て行きなさいな! それとも結局お姉さまも素敵な殿方がお相手であれば抱かれたいと、そう思われていらっしゃるの? 偉大なるリゼレスナ帝国皇帝陛下を前にしてなんと身のほど知らずな。清楚なふりしてその実浅ましくていらっしゃる。血は争えないですわね」
(お母様を侮辱しないで!)
憎たらしい笑顔を叩いてしまいそうになった手にぐっと力を込めて、手のひらに食いこむ爪の痛みで冷静さを取りもどす。
いつもならここまで妹のあおり文句に反応などしないのに、いつまでも賓客を待たせているという不安、そして媚薬を飲まされて熱に侵されているせいか簡単に心が揺らいでしまう。
(だめよ、みっともなく声を荒らげては。激情に駆られてはいけないって、お母様がおっしゃっていたもの……!)
奥歯を食いしばり、握りしめた手に力を込め、何度も肩で息をして辛うじて怒りをやり過ごす。
感情を抑えこむノツィーリアを見てディロフルアがふん、と鼻で笑った。
「まったく、いつまで食い下がるおつもりなんですの? ルジェレクス様はあきらめなさいな。きっとお姉さまのことだから、ルジェレクス様にうまいこと取り入って、めとっていただこうなんて画策していらっしゃったのでしょう?」
「私はこの国の役に立てるならばと覚悟を決めて参ったのです。そのような浅薄な思いでこの場に臨んではおりません」
ノツィーリアは客人に向きなおると、体の前で両手を重ねて深々と頭を下げた。