レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
「お見苦しいところをお見せしてしまい大変申し訳ございません、ルジェレクス皇帝陛下」

 おそるおそる顔を上げて、敵対国の皇帝とまっすぐに向き合う。睨みつけられただけで今にも殺されるのではないかと思うほどの鋭い眼光。緊張感に襲われる中、視線を逸らすなどという無礼を働くわけにもいかず、息を詰めてどうにか目を合わせつづけた。

 ノツィーリアが恐怖心を抑えつつ皇帝の反応を待ちかまえていると、ゆっくりと一度まばたきをした皇帝が赤い瞳でノツィーリアを見据えた。

「そなたが悪女と噂のノツィーリア姫か」
「ルジェレクス様! この女と関わるとろくなことになりませんわ!」
「黙れ。貴様に用はない」

 妹の叫び声を剣で一閃するかのような鋭く低い声。瞬時に空気が凍りつく。ノツィーリアも並びたつディロフルアもほとんど同時に肩を跳ねさせた。
 しかしディロフルアは冷酷なまなざしを受けても怯むことなく一歩前に踏みでると、引きつった声で反論しはじめた。

「ルジェレクス様? このわたくしがお相手してさしあげると申しておりますのよ? こんなにも美しい私を差しおいてお姉さまをお選びになるとでもおっしゃるつもりですの? そんなこと、天地がひっくり返ってもありえないことですわ! 今まで生きてきてわたくしを称えなかった者なんてひとりもおりませんもの!」
「はっ、王族の顔色をうかがう者しか周りに侍らせてこなかったというわけだ。貴様は狭い世界に生きてきたのだな。余は秘匿されつづけてきた姫君、ノツィーリア姫が売りに出されたと聞きつけたからこそここへ参ったのだ」
「お姉さまは今までかくまわれていたわけではなく、単に王族としての責務から逃げまわっていただけですわ!」

 ディロフルアが世間一般に広まっているノツィーリアの悪評を皇帝に訴えだす。
 それを否定したところで信じてくれる人はいない、当然皇帝陛下だって――。ノツィーリアは沈む心に引きずられるように、床に視線を落とした。
< 30 / 66 >

この作品をシェア

pagetop