レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
「『その者に用はない』、と申したはずだ」
「……!」
いよいよ板挟みとなったノツィーリアは床に額をつけたまま必死に考えを巡らせた。当初の予定どおりノツィーリアが皇帝を歓待するにせよ、ここまで機嫌を損ねておいてただ抱かれるだけで済むとは到底思えなかった。皇帝の気が済むまで暴力を振るわれるかも知れない。傷を負って衰弱し、死ぬまで解放してもらえないかも知れない。
しかしそれをこばむ態度を見せた結果、皇帝の怒りが王国そのものに向けられる事態はなんとしても避けなければならない。帝国より国力が劣っているのみならず、まったく戦争経験のない王国軍が帝国軍に立ち向かえるはずがない。
とにかくまずは妹を引き下がらせなければ――。皇帝と妹とどちらからも虐げられる覚悟をもって、お辞儀をやめて妹に振りかえる。すると、見上げた顔は思いどおりにならない苛立ちにゆがめられていた。客人のはずの相手をしかめっつらで睨みつけている。
ディロフルアは涙を浮かべてもいない顔を隣室に振りむかせると、金切り声で叫んだ。
「私を拒むなんて許せない! お父さまを呼んで!」
隣室に待機していたらしきメイドたちの駆けだす足音と扉が開かれる音が聞こえてくる。
ほどなくして、まるで待機していたかのように父王はすぐに寝室にやってきた。
ディロフルアが父親に駆けより、その顔を見上げて今にも泣きだしそうな声で訴えはじめる。
「お父さま! お姉さまが『ルジェレクス様のお相手は私だ』などと言ってお部屋から出ていってくださらないの! せっかくわたくしが、お務めを嫌がっているお姉さまと交代して差しあげると言っているのに!」
「また貴様は……!」
ノツィーリアを睨みつけた父王が、その顔に怒りをみなぎらせる。今までその表情のあとに怒声を浴びせられ続けてきた身は、激高したまなざしに射抜かれれば簡単にすくみあがる。
きちんと現状を説明しなければ――。床に座ったままのノツィーリアが口を開きかけた矢先、部屋に飛びこんでくる影があった。
それは妹の婚約者、ユフィリアン・シュハイエルだった。
「……!」
いよいよ板挟みとなったノツィーリアは床に額をつけたまま必死に考えを巡らせた。当初の予定どおりノツィーリアが皇帝を歓待するにせよ、ここまで機嫌を損ねておいてただ抱かれるだけで済むとは到底思えなかった。皇帝の気が済むまで暴力を振るわれるかも知れない。傷を負って衰弱し、死ぬまで解放してもらえないかも知れない。
しかしそれをこばむ態度を見せた結果、皇帝の怒りが王国そのものに向けられる事態はなんとしても避けなければならない。帝国より国力が劣っているのみならず、まったく戦争経験のない王国軍が帝国軍に立ち向かえるはずがない。
とにかくまずは妹を引き下がらせなければ――。皇帝と妹とどちらからも虐げられる覚悟をもって、お辞儀をやめて妹に振りかえる。すると、見上げた顔は思いどおりにならない苛立ちにゆがめられていた。客人のはずの相手をしかめっつらで睨みつけている。
ディロフルアは涙を浮かべてもいない顔を隣室に振りむかせると、金切り声で叫んだ。
「私を拒むなんて許せない! お父さまを呼んで!」
隣室に待機していたらしきメイドたちの駆けだす足音と扉が開かれる音が聞こえてくる。
ほどなくして、まるで待機していたかのように父王はすぐに寝室にやってきた。
ディロフルアが父親に駆けより、その顔を見上げて今にも泣きだしそうな声で訴えはじめる。
「お父さま! お姉さまが『ルジェレクス様のお相手は私だ』などと言ってお部屋から出ていってくださらないの! せっかくわたくしが、お務めを嫌がっているお姉さまと交代して差しあげると言っているのに!」
「また貴様は……!」
ノツィーリアを睨みつけた父王が、その顔に怒りをみなぎらせる。今までその表情のあとに怒声を浴びせられ続けてきた身は、激高したまなざしに射抜かれれば簡単にすくみあがる。
きちんと現状を説明しなければ――。床に座ったままのノツィーリアが口を開きかけた矢先、部屋に飛びこんでくる影があった。
それは妹の婚約者、ユフィリアン・シュハイエルだった。