レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
 皇帝は無言で父王に視線を返した。表情の変化がなく、反応が読めない。
 それを都合よく了承と受け取ったらしき父王が再び妹に視線を戻し、満面の笑みを浮かべた。

「ルジェレクス皇帝陛下はこの一晩に五億エルオンも出してくださったのだぞ。さあディロフルアや。うんとご奉仕して差し上げなさい」
「ええ! お任せくださいお父さま。この世で一番美しいわたくしが、今にルジェレクス皇帝陛下を(とりこ)にしてみせますわ!」

 勝手に盛り上がる父娘の隣で、ノツィーリアは密かに息を呑んだ。

(五億エルオンですって!?)

 最初に父王が話していた額と桁が二桁違う。たった一晩にそこまでの大金を払ったからこそ、皇帝は最優先で招かれたのだろう。
 にもかかわらず父王は、娘のわがままを受け入れて、今にも契約を(たが)えようとしている。
 淫売などという内容であっても、国主導の事業であることには変わりない。広く他国にまで呼び掛けておいて契約を反故にしてしまえば当然、国際社会での信用はなくなる。ただでさえ国力の衰えているレメユニール王国が、ますます窮地に陥るであろうことは明白だった。

 とはいえノツィーリアがそれを説いたところで父王は耳を貸してもくれないだろう。
 どうしたら王国の危機を防げるのか――。いくら思案を巡らせたところで無力さばかりが押し寄せてきて、ノツィーリアは悔しさに唇を噛み締めたのだった。
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