レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
「我が愛娘を侮辱したこと、後悔するがよい、ルジェレクス皇帝陛下よ」
「――!?」

 突然の態度の変化にノツィーリアが目を見開いた、その瞬間。


 大勢の近衛兵が寝室になだれ込んできた。


 派手な装飾の施された鎧で身を固めた近衛兵が壁沿いに並んでいき、出入り口と窓、そして暖炉までをも固める。
 包囲網が敷かれていく光景を眺め渡した父王が、肥えた腹を揺らして笑いはじめた。

「ふははは、ふはははは! あっけないものよのリゼレスナ帝国第三代皇帝ルジェレクスよ! この部屋は我が国の精鋭たる近衛兵が取り囲んだ! いくら国賓とはいえ、我が愛娘ディロフルアを拒絶したこと、許すわけにはいかぬ!」

(まさか皇帝陛下を(あや)めるつもりなの……!?)

 父王の所業にノツィーリアは愕然とせずにはいられなかった。
 そんなことをすれば、ただちにリゼレスナ帝国に攻め込まれてしまう。まっさきに犠牲になるのは、何も知らない国民だ。

「やれ」

 父王が皇帝を顎で指す。近衛兵のひとりが剣を抜き、一歩一歩、皇帝に近づいていく。しかしルジェレクス皇帝は、落ち着き払った態度のままだった。
 濃く長い睫毛まで伏せて、まるでこの場で起きている出来事に興味すら示していないかのようにも見える。戦争という修羅場を潜り抜けて来たからなのか、異常事態に陥っても揺るがない態度にいっそ感心させられてしまう。

 とはいえルジェレクス皇帝はどう見ても丸腰だった。もしかしたら、寝衣やガウンのどこかに武器を隠し持っているのかも知れない。とはいえ防具も着けていないひとりと強固な鎧をまとった大勢の兵士とでは、いつまでも持ちこたえられるとは到底思えない。

 ノツィーリアは、いてもたってもいられずその場から駆け出した。

「お待ちくださいお父様! お務めは果たしますから皇帝陛下を害するなどおやめください!」
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