レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
(ルジェレクス皇帝陛下は私が守ってみせる! 大勢の国民が死ぬことになるくらいなら、一度は死のうとしていた私の命、差しだしても惜しくない!)

 何度斬りつけられようとも、ここから決して動かない――!

 そう固く誓って兵士を睨みつける。
 剣が高く振りかざされる。斬りつけられる痛みを覚悟した次の瞬間。


 鋭い金属音が部屋中に響きわたった。


 ノツィーリアと兵士の間には短剣を構えた妹の元婚約者ユフィリアンが立ちはだかり、兵士の剣を受け止めていた。
 先ほどまで、並びたつ兵士の陰でへたりこんだままだったというのに――。思いもよらない出来事に、死を覚悟していたノツィーリアは一瞬何が起きたか把握できなかった。
 一方で、父王が忌々しげに頬をひきつらせる。

「ふん、やはり貴様は間者であったか。シュハイエル家の()()である時点で嫌疑をかけるべきだったな」

 その発言は負け惜しみだった。妹の婚約者だったユフィリアンは十年前、十六歳のときに山向こうの隣国から子のいないシュハイエル公爵家に養子としてやってきた人だ。
 八年前にディロフルアの婚約者候補として公爵が彼を王城に連れてきた際、父王は養子であることを懸念していたが、妹が彼を一目見て気に入ったためそのまま婚約に至ったのだった。

 口ぶりは冷静なわりに頬をひきつらせている父王の隣で、ディロフルアが金切り声を張りあげる。
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