レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
 すぐさま天井に光の渦が出現し、その中から見慣れない鎧をまとった兵士たちがひとりまたひとりと寝室に飛び降りてきた。彼らの身に着ける鎧には、帝国の紋章が刻み込まれている。
 帝国軍兵士が続々と増えていき、既に魔法で動きを制されている近衛兵たちが剣を構える暇もなく拘束されていく。
 全員が後ろ手に縛られた頃合いを見計らって魔導師が再び床を踏み鳴らして魔法を解除すると、無力化された近衛兵たちが寝室から引きずり出されていった。

「外にもゲートを作っておいたから、どんどん出てくるよ~。あ~楽し♪」

 魔導師が笑いながら指を打ち鳴らす。すると今度は空中に半透明の絵画が出現した。
 よく見るとその絵は動いていた。俯瞰する角度から王城を映し出す絵の中では、この寝室で起きていることと同様に近衛兵が帝国兵に捕縛されていっていた。

 信じがたい光景に父王も妹も口をぽかんと開けて、目の前で繰り広げられる光景をただただ見つめるばかりだった。そんな彼らの両側には帝国兵が立ち、二人を見張り始めた。


 近衛兵の排除が完了し、帝国軍の司令官らしき人物が頭を下げて出ていけば、ノツィーリアと父王、妹、その両脇を固める帝国兵ふたり、そしてルジェレクス皇帝、ユフィリアン、魔導師だけがその場に残る。

 隣の部屋や窓の外から怒号が聞こえる中でノツィーリアが立ちつくしていると、突然肩にガウンを掛けられた。予期せぬ感触に全身が跳ねる。
 ガウンを着せてくれたのはルジェレクス皇帝だった。たちまち肌に染み込んでくるぬくもりに、体が随分と冷えていたことに気付かされる。
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