レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
「すまぬ、話が逸れてしまったな。先月、そなたが売りに出されると間者から報告が上がってきた際、あまりに下衆な発想にあきれ果て、また国王のそなたに対するむごい仕打ちに怒りすら覚えていたのだが……。それを聞きつけたシアールードが此度の作戦を思い付き、余に提案してきたというわけだ。金を積めば国交を断絶している敵国の元首であろうとも招き入れる、国王の愚昧さが幸いした」
「あの魔導師様が、作戦まで考えてくださったのですね」
「ああ、奴の発想にはいつも驚かされておる」

 父王の愚かさに救われる形となったことを教えられれば、最後に見た父の屈辱にゆがむ顔が脳裏に浮かんでくる。 

「ルジェレクス皇帝陛下。国王たちの処遇はどうなさるおつもりなのでしょうか」
「様子を見てみるか?」
「えっ?」

 意外な返答にノツィーリアが目を見開いていると、皇帝がサイドテーブルに手を伸ばし、絵はがき程度の大きさのガラス板を取り上げた。
 そこには牢屋を見下ろす角度の絵が描き出されていた。映るのは、うなだれる父王と青ざめた王妃そしてディロフルア。妹だけが鉄格子をつかんで外に向かって叫んでいる。

「まとめて地下牢に放りこんである。そなたを苦しめていたメイドたちもな」
「彼らは……処刑されるのですか」
「そなたが望むのであれば、すぐにでも」

 そう言って視線を返してくる瞳は、瞬時に全身が凍りついてしまいそうなほどの冷酷さを帯びていた。決して容赦はしないとその眼光が告げている。ノツィーリアがうなずけば、ただちに皇帝から(めい)がくだされ牢の中で断罪が行われるのだろう。

「処刑なんて、そんな……」
「そなたの扱いはユフィオルトから聞いておる。奴らが憎かろう?」
「私が彼らから虐げられてきたのは事実です。しかし彼らを処したところで母は喜びませんし、私もそれを望みません」

 ノツィーリアの言い分を、ルジェレクス皇帝は真剣な顔をして聞いてくれている。
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