レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
「余はすでにそなたに心を奪われていたというのに、昨夜そなたを一目見たときに、そなたの息をのむほどの美しさに見惚れずにはいられなかった。きらめく銀色の髪、満月の輝きにも負けぬ黄金色の瞳……。妹のために頭を下げ、余を凶刃から庇おうとした凛々しい姿にも胸を打たれた。余はそなたに心酔しきりだ」
「ありがとうございます……」

 耳を疑うような言葉を続けざまに聞かされて、ノツィーリアは思わず目を泳がせてしまった。
 その反応に口元を微笑ませたルジェレクス皇帝が、笑みを消してさらに語り続ける。

「話を戻そう。先月、レメユニール国王のおぞましい思いつきでそなたが汚されると知り、その窮地から救いだしたいと願うも余の個人的な思いだけで兵を動かすわけにはいかず、気を揉む日々を送っておったのだが……」
「それは、恐れ入ります……」
「そんな中、我が帝国同様そなたの母君を支持する国々から『レメユニール国王の狼藉はいよいよ捨て置けぬ』との声が続々と上がりはじめたのだ。希代の踊り子を手込めにしただけでも許しがたいのに、その娘まで我欲を満たすために利用するなど到底看過できぬと。これを機に国王の暗殺をもくろむ国も現れはじめたのだが、遠方他国のその動勢を根拠に『我が帝国の近傍に争いの火種が持ちこまれることを防がねばならぬ』との大義名分ができ、あえて国王の事業に乗るふりをして国王に大金を与えて油断させ、浮かれているところにさらなる儲け話となる魔道具の利用を持ちかけ、堂々と中枢へと踏みこみそなたを連れだす手筈を整えたのだ」
「そうだったのですね。何から何まで本当にありがとうございます」

 母が世界各地で人々を魅了したからこそ、今自分はこうして生きている――。
 時を越えて亡き母に救われたこと、そして皇帝が自分に思いを寄せつづけてくれて、尽力してくれた事実に胸が熱くなる。
< 61 / 66 >

この作品をシェア

pagetop