レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
「あの、魔導師様は、もしかしてずっとそこにいらっしゃったのでしょうか!?」
「いやぁさすがに~? そこまでの()()は身に余ります~」
「心にもないことを言いおって」

 皇帝のあきれ声にも悪びれずに軽々と床に降り立った魔導師が、ノツィーリアを見てにっこりと口元を微笑ませる。目は元々笑った形であるせいか、その笑顔が本気か冗談かがさっぱり読みとれない。
 ノツィーリアが魔導師の顔をじっと見つめるうちに、ふと残念そうな表情に変わった。

「あーあ。噂通りの悪女だったら俺がいただくはずだったのにな~」
「え……」
「無礼な物言いをすまぬ、そやつが勝手に言いだしたことだ。許可は出しておらぬ」
「悪女を俺の魔法で思いっきり調()()したかったのにな~。そんな人どこにもいなかったわけだけど。噂なんてあてにならないよね~」
「わざわざそんなことを言いに来たのか貴様は。とっとと出ていかぬか」

 皇帝がぞんざいな手つきで宙を払い、魔導師を追いだしにかかる。

「はいはい。早く二人きりになりたいんですよね~」
「わかっているならさっさと……」
「お待ちくださいませ魔導師様!」
「へ? 俺?」

 その場で消えかかった魔導師が再び姿を現す。ノツィーリアはガウンの前を念入りに重ねあわせると、広いベッドの上で正座して背筋を伸ばし、膝の前で両手を揃えてゆっくりと頭を下げた。

「このようなみっともない格好で申し訳ございません。(さく)(じつ)はわたくしめをお助けくださいまして本当にありがとうございました」
「いや~俺は陛下に命じられただけだからさ。礼なら陛下に……ああ、もう()()()()()()のか」
「茶化すな、シア―ルード」

 陛下が語気鋭くたしなめる横で、今言われた言葉の意味するところに気付いた途端に頬がかっと熱くなってしまう。
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