修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「おにいちゃん」

「うん?」

 ロルフの左手にクルトの手を、そしてクルトの左手はクラーラの手に繋がれている。本館の方へと歩くロルフに、クラーラが声をかけた。

「レギーナのこと、好きなの?」

「……」

 ロルフは困ったようにクラーラを見る。が、クラーラは何の悪気もないようで、にこにこと笑っていた。

「わたし知ってるもの。おにいちゃん、貴族の女のこと嫌いなんでしょ」

「そういうわけじゃない」

「嘘よ」

「そういうわけじゃない。ただ、彼女ほどお前たちを大事にしてくれる人を見たことがないと思ってさ……」

 すると、クルトも声をあげる。

「えーっ? あんな、髪から枝をとるのにモタモタしてたのに? あれ、わざとでしょ?」

「!」

 幼い2人は少しだけませたように笑う。ロルフはいささか赤面をして、困ったように声を絞り出した。

「見てたのか、お前たち!」

「「見てた見てた!」」

 そう言って、楽しそうに2人は同時に足をバタバタと踏み鳴らす。そんなところが双子らしくなくても良いのに……とロルフはため息をついた。

「わたし、ここの人たちみんな嫌い。死んじゃったお父さまも嫌い」

「クラーラ」

「だって、わたしのこともクルトのことも、天才だって、そればっかり。何が好きで何が嫌いなのかも知らないくせに、おべっかばかり使うんだもん」

 そう言ってクラーラが頬を膨らませれば、クルトも同意をする。

「僕もやだ。みんな、お母さまが死んでから、僕らのこといらない子供みたいな扱いでさ。こんな子供じゃ、後継ぎになるまで時間がかかるとかなんとかかんとか言って、おにいちゃんを無理矢理呼び戻したのに、次は僕らが勉強ちょっと出来るだけでさぁ~! 天才だ! とか言い出して、ほんとやだ! やだ! おにいちゃんと遊べる日以外は、ずーーーーっと監視がついてるし、もう面倒くさいよぉ……」

 そう言って彼は唇を尖らせた。ちょうど本館前に着いて、クルトはクラーラの手を離した。

「クラーラ。湯あみをして、服を着替えろ。じゃあ、またな」

「うん。おにいちゃん、またね。クルトも、またね」

 そう言って、クラーラはクルトと抱き合った。そして、頬にキスをする。ロルフが膝を折ると、爪先立ちで彼の頬にもキスをした。
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