修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「ロルフさん?」

「……ああ、いや、なんでもない。そうだな。きっとセガリの木と間違えて植えちまったのかもな。ここの庭園は見ての通り広く、離れの方は既に庭園とは言えず、林と言ってもいいほどだ。俺の手が入っているのはあちらの中央だけで、他の場所は年に数回しか見て回らないため、気付かなかったのかもしれない」

「そうなんですね。クルトには、食べちゃ駄目って言ったんですけど……」

 その言葉を聞いて、ロルフは「レギーナ」と言って、彼女の二の腕を強く掴んだ。

「はっ、はい!?」

「本当にありがとうな……あんたがいなければクルトはここに来ない、という前提はあるけどさ、それでも。あんたのその知識でクルトは助かったようなものだ。もし、ここに俺とクルトだけが来たら、俺はセガリの木だと思って、それを食べても良いと言っていたかもしれない。だから、ありがとう。防いでくれて」

「ええ~? 大袈裟ですよ、ロルフさん!」

 そう言ってレギーナは笑う。だが、ロルフは首を横に振った。

「大袈裟じゃねぇよ」

「そ、そうですか……でも、本当にたまたまのことです。昔、修道院の子供が山でこの実を食べたことがあって……」

 その時の子供の症状を話すレギーナ。ロルフは真剣にその話を聞いて「そこまで毒性が強いのか……」と呟く。

「なので、これがここにあることはよくないと思うんですよねぇ。ロルフさん、これ、抜いたり出来ませんか?」

「ううん、俺が担当しているのは本館の庭園のみで、それ以外の場所は……いや、だが、抜こう。抜いた方がいい……クルト、クラーラ、2人は先に戻ってくれ。もう時間だ」

 そのロルフの声に、2人は嫌がる。が、彼は珍しく険しい声を出したので、クラーラは何かを察したようだった。クルトに「帰りましょ!」と言って、先にクラーラはレギーナに手を振る。それへ手を振り返すと、不承不承クルトも手を振って、2人は歩いて行った。

(ロルフさんがいらっしゃらないのに、帰り道とかわかるのかしら? 2人で門を出て、お家に帰れるのかしら?)

 レギーナはそう思い、ロルフにそれを尋ねようとした。が、彼は「ちょっと道具を取って来る」と言ってその場から離れてしまう。結局、次に彼が戻って来た時、レギーナの疑問は頭からさっぱりどこかへ行ってしまい、それを尋ねることはなかった。
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