修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「いや、ちょっときちんと考え直してくれませんか。ようやくわたしも冷静になってきましたが、そもそもメーベルト伯爵に……あなたが『手を出してもらえる』保障はありませんよ……?」

 と、変化球を投げる大修道院長。

「まあっ、失礼ですね! わたしの、こう、ちょっとだけ微妙な美貌を、こう、どうにかすれば、少しは手を出してもらえるに違いありませんよ……」

 言いながら、レギーナの声は少しずつすぼまっていく。そうだ。大修道院長もちょっとだけ声を荒げたものの、冷静に考えればそう心配することもない気がする。なぜなら、レギーナは本人も言った通り「ちょっとだけ微妙な美貌」しか持っていない。

 髪は、くせっ毛の金髪で、束ねていないとふわふわとあちこちに跳ねてしまうし、顔の造作は良いけれどもそばかすが多い。言うなれば、非常に健康的な美貌を持ち合わせているのだが、それが貴族社会となると、また少し勝手が違うだろうと思う。そして、体は少し痩せている。いや、駄目だろう……大修道院長は頭を抱えたが、もう決めたことは仕方がない、と受け入れた。

「そうですか。わかりました……頑張って来なさい。家事はどれもこれも一通り以上あなたは出来るし、足手まといにはそうはならないはずですし……ええ……まあ、普通に稼いでお金を入れてくれる分には……」

 そんなことを言わなければいけない修道院の現状もどうかと思いつつ、大修道院長はもごもごと激励を述べるだけ。

 ちなみに、2人が言っている「メーベルト伯爵」の噂はある意味で本当なのだが、とある事情により、レギーナはそのメーベルト伯爵に会うことは出来ない。が、彼女はまだ、それを知らないのだった。
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