修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
レギーナが離れの中で窓を拭いていると、ちょうどロルフが本館の庭園の方から歩いて来る姿が見えた。慌てて、手を洗って外に出るレギーナ。
「ロルフさん!」
「ああ、レギーナ……その……」
「クルトなら、クラーラのところに行くと言って……」
「ああ、うん。それはわかっているんだ……その……」
「?」
「あいつ、何か、言っていなかったか?」
バツが悪そうな表情で尋ねるロルフ。レギーナは「ふう」と小さなため息をついてから「そちらのベンチにどうぞ」と、クルトと同じように外のベンチに彼を誘導した。
「……なるほど」
レギーナはクルトが自分に何を話したのかを、包み隠さずロルフに話した。クルトはレギーナに口封じを頼まなかったし、それに、ロルフは彼らの保護者と言える立場だからだ。
「何をクルトにやれって言ったんですか? その、差し支えなければ……」
「ううん、差し支えは、ちょっとあるかな」
そう言ってロルフは苦笑いを見せる。彼は、片手で自分の頭を押さえて「うーん」と唸った。
「クルトには、やってもらわなくちゃいけないことがあって、それは、俺と庭園で会わない日にしてもらわなくちゃいけないんだ。だけど、庭園に俺が出ない日は、俺も俺でやることがあってさ……いや、これはレギーナに言う話じゃないが……」
はあ、とため息をつくロルフ。
「俺が、代わってやれればいいんだが、それじゃ駄目なんだ。俺は俺でやることがある。クルトはクルトでやることがある。それは、どっちもきちんと……ううん、俺はそうきちんと出来てはいないが、まあ、ほどほどに……それなりにやってもらわないと困るんだが、クルトはそれを嫌がってな」
「よくわからないですけど、そうなんですね」
「でも、本当はあいつもわかっているんだ。やらなくちゃいけないってことは。でも、あの年齢の子供にやれといっても、それが酷なことは俺もまたわかっている」
そう言うと、ロルフは俯いて体を前に倒した。膝の上で両手を組み合わせて、まるでお辞儀をしているように項垂れる。彼の低い声音から、苦渋の選択を選んでいるのだということがレギーナにも伝わった。
「わかっていても、言うしかなくてな……でも、俺も言い過ぎたかもな……時間がそんなにないんだ。だから、ちょっと……いや……俺も悪い……」
そう言って、ロルフは黙り込む。時折「はあ」と小さなため息をつくその様子を見て、レギーナは「可哀相に」と思う。
修道院の子供たちと自分も、時には意見が食い違ってぶつかり合うこともあった。だが、大体一晩眠れば互いに謝ることが出来るようになる。それでも、ぶつかりあって話が通じないと思った時の心の痛みや、カッとなった時の苛立ちは、その日のうちには解消しない。きっと、ロルフとクルトも同じなのだろうと思う。
レギーナは無意識に、項垂れているロルフの頭に手を置いて、軽く頭を撫でた。
「大丈夫ですよ。クルトはいい子ですし、ロルフさんのことを大切に思っているって言っていました。それに、ロルフさんがクルトのことを大切に思っていることも知っているって。だから、明日になればきっと大丈夫になりますよ」
ロルフは頭を撫でられて、一瞬体を軽くびくつかせたが、黙って項垂れたままになっている。
「きっと、蓄積していたんじゃないですか。何度も同じ話をしていませんでしたか? ありますよね。つい、同じことを言ってしまうことって」
「うん。そうなんだ……同じことを言ってしまった……」
「同じことを言いたくなる気持ちもわかります。でも、言われる方には、ちょっと重たくなって来ちゃうんでしょうね」
そう言ってレギーナは彼の頭から手を離した。
「ロルフさん!」
「ああ、レギーナ……その……」
「クルトなら、クラーラのところに行くと言って……」
「ああ、うん。それはわかっているんだ……その……」
「?」
「あいつ、何か、言っていなかったか?」
バツが悪そうな表情で尋ねるロルフ。レギーナは「ふう」と小さなため息をついてから「そちらのベンチにどうぞ」と、クルトと同じように外のベンチに彼を誘導した。
「……なるほど」
レギーナはクルトが自分に何を話したのかを、包み隠さずロルフに話した。クルトはレギーナに口封じを頼まなかったし、それに、ロルフは彼らの保護者と言える立場だからだ。
「何をクルトにやれって言ったんですか? その、差し支えなければ……」
「ううん、差し支えは、ちょっとあるかな」
そう言ってロルフは苦笑いを見せる。彼は、片手で自分の頭を押さえて「うーん」と唸った。
「クルトには、やってもらわなくちゃいけないことがあって、それは、俺と庭園で会わない日にしてもらわなくちゃいけないんだ。だけど、庭園に俺が出ない日は、俺も俺でやることがあってさ……いや、これはレギーナに言う話じゃないが……」
はあ、とため息をつくロルフ。
「俺が、代わってやれればいいんだが、それじゃ駄目なんだ。俺は俺でやることがある。クルトはクルトでやることがある。それは、どっちもきちんと……ううん、俺はそうきちんと出来てはいないが、まあ、ほどほどに……それなりにやってもらわないと困るんだが、クルトはそれを嫌がってな」
「よくわからないですけど、そうなんですね」
「でも、本当はあいつもわかっているんだ。やらなくちゃいけないってことは。でも、あの年齢の子供にやれといっても、それが酷なことは俺もまたわかっている」
そう言うと、ロルフは俯いて体を前に倒した。膝の上で両手を組み合わせて、まるでお辞儀をしているように項垂れる。彼の低い声音から、苦渋の選択を選んでいるのだということがレギーナにも伝わった。
「わかっていても、言うしかなくてな……でも、俺も言い過ぎたかもな……時間がそんなにないんだ。だから、ちょっと……いや……俺も悪い……」
そう言って、ロルフは黙り込む。時折「はあ」と小さなため息をつくその様子を見て、レギーナは「可哀相に」と思う。
修道院の子供たちと自分も、時には意見が食い違ってぶつかり合うこともあった。だが、大体一晩眠れば互いに謝ることが出来るようになる。それでも、ぶつかりあって話が通じないと思った時の心の痛みや、カッとなった時の苛立ちは、その日のうちには解消しない。きっと、ロルフとクルトも同じなのだろうと思う。
レギーナは無意識に、項垂れているロルフの頭に手を置いて、軽く頭を撫でた。
「大丈夫ですよ。クルトはいい子ですし、ロルフさんのことを大切に思っているって言っていました。それに、ロルフさんがクルトのことを大切に思っていることも知っているって。だから、明日になればきっと大丈夫になりますよ」
ロルフは頭を撫でられて、一瞬体を軽くびくつかせたが、黙って項垂れたままになっている。
「きっと、蓄積していたんじゃないですか。何度も同じ話をしていませんでしたか? ありますよね。つい、同じことを言ってしまうことって」
「うん。そうなんだ……同じことを言ってしまった……」
「同じことを言いたくなる気持ちもわかります。でも、言われる方には、ちょっと重たくなって来ちゃうんでしょうね」
そう言ってレギーナは彼の頭から手を離した。