修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
 すると、ロルフはむくりと顔をあげ

「レギーナ」

「はい?」

「もうちょっと……」

「なんでしょう?」

「その……もうちょっと、撫でてくれ……」

「ええ?」

 ロルフは思った以上に甘えたがりなのだろうか。レギーナは困惑の声をあげたが、そのまま彼の頭に再び手を乗せる。少しくせっ毛の銀髪は思った以上にふわふわしていて柔らかい。レギーナはその髪を何度も何度も撫でた。

「……うん。元気になってきた」

 そう言ってロルフはレギーナの手を掴み、顔をゆっくりあげた。彼の大きな手に自分の手が包まれるのを見て、レギーナはなんだか気恥ずかしくなる。

「よ、かった、です」

「ありがとう」

 ぎゅっと少し力を入れてロルフはレギーナの手を握った。

「あっ……」

 顔をあげた、といってもまだ彼は少し前のめりで、下からレギーナをじっと見る。その視線に射抜かれたようにレギーナは「うっ」と体を少し反らしたが、手は離れない。彼の頬はわずかに紅潮しており

「悪い。ちょっと、甘えちまった」

と、照れくさそうに呟く。

「い、いいえ……」

 レギーナは少しぎくしゃくしながら、ようやく彼の大きな手からそっと自分の手を抜いた。温かかったぬくもりから離れ、少し涼しい空気が手に触れる。たったそれだけのことなのに「彼に自分の手が握られていたのだ」とやたらはっきり教えられたように感じて、レギーナもまた頬を赤く染めた。

「そうだな。あんたが言う通り、明日になれば大丈夫なんだろうな。その……今まで、クルトが俺の言葉をどういう気持ちで聞いていたのかとか……それを言う相手もクラーラ以外いなかったんだと思う」

「そう、なんですか」

「うん。だからさ……クルトの話を聞いてくれてありがとうな。そんで……その。俺の、方も……なんだ……ありがとう」

 最後のありがとうは少し目を逸らしてのものだったが、ロルフの気持ちはレギーナに伝わる。

「いいえ、どういたしまして。家族のことって、知らない人に話す方が楽だったりしません?」

「そう……そうかもしれんな」

「そんなもんですよ!」

 そう言ってレギーナは笑い、ロルフの肩をぽんぽんと叩いた。ロルフは照れ笑いを浮かべて

「あんたがいてくれてよかったよ」

と、レギーナの目を見ながら、しみじみと告げた。レギーナはそれに返事がうまく出来ず、ただ、こくりと頷くだけだった。
< 21 / 49 >

この作品をシェア

pagetop