修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
7.互いの過去
そして翌日。約束通り離れにやってきたロルフは小さな袋を1つレギーナに渡した。中を見れば、それは茶葉だった。
「まあ! まあ! どうしたんですか、これは。えっ、えっ、わたしでもわかりますよ。これはとってもお高いものですよね? そうじゃなくっちゃこんなきちんとした瓶になんて入っていません……!」
レギーナは「自分が今まで淹れていたお茶は、袋にそのままガサッと入っていたのに!」と声をあげる。
「もらいものだ。ここで、茶を出してもらってるからな」
とロルフは言うが、それでも素直に受け取ることがレギーナには難しい。
「ですが……」
「もし、どうしてもあんたが気にするっていうなら、俺たちが来た時だけに淹れてくれればいい。自分一人の時は、修道院から持ってきた茶葉で飲めばいいさ。ねえ、それだって量は限られているだろう? そうしたら、それを買いに行きたいと思わないか?」
「そ、そ、そうでした。まあ、わたしったら!」
袋から瓶を出せば、美しい瓶に茶葉が詰まっている。そんな美しいものをレギーナは初めて見た。なんて綺麗なんだろうと思いながらそれを見ていたら、無意識のうちに涙が目の端にあふれてくる。
「レギーナ?」
「なっ、なんでもありません! なんでも……!」
「どうした」
「その……こんな素晴らしいものをいただけるなんて……夢みたいだと思って……あれっ、止まらない……」
何故か、次から次に涙が溢れてくる。レギーナは受け取った茶葉を胸にしっかりと抱きながら俯いた。
思い出すのは修道院での毎日。何も特に不満などなかった日々。いや、なかったわけではない。だが、いつの日か日々に忙殺されて、不満を口にしなくなっただけだ。もっと色々大修道院長にあれこれと言いたかったが、そうしたところでどうにもならないことをレギーナは知っていた。
だから、彼女は悩んだ。修道院にいるみなが元気で健やかでこの先も暮らせるにはどうすればいいのかと思った。そして「わたしが稼いでくればいいんだわ!」という結論が出た。
彼女は、もらった茶葉を見た瞬間「修道院のみんなに飲ませてあげたい」と思った。けれど、それは叶わないことだ。いや、給金を送る時に一緒にこの茶葉も送ればいいとは思う。だが、さすがに修道院にいる子供たち、いや、子供を抜いて大人だけでも、全員に茶を出したら2度程度でなくなってしまうだろう。それぐらいの量。そう思えば、これを送ることなぞ出来やしない。
そんなことを、ぐるぐると考えた。考えていたら、よくわからないけれど涙が出て来た。なんとなく修道院が恋しい。ここで1人離れの手入れをしているだけの日々は、少しだけ寂しい。そんな思いもあれば、ロルフの優しさが染みたり、クルトとクラーラに実は救われていたのは自分の方ではないかとも思ったり。レギーナはぐるぐるとあれこれ考えて、ただ、なんだか泣きたい気分になったのだ。
もちろん、どうして泣いているのかをロルフにうまく説明は出来ない。だが、彼もそれを彼女に尋ねず「泣き止んだら、笑顔になってくれよ」と穏やかに言って、何故かレギーナの頭を撫でた。何度も何度も撫でる優しいその手は、まるで大修道院長のようだ、とレギーナは思う。
それが、駄目だった。大修道院長を思い出せば、もう涙が止まらない。レギーナは「ごめんなさい……」と呻いて、体を折った。ロルフは、彼女の背を軽く抱いて「大丈夫。大丈夫だから」と彼女に優しく言い聞かせるのだった。
「まあ! まあ! どうしたんですか、これは。えっ、えっ、わたしでもわかりますよ。これはとってもお高いものですよね? そうじゃなくっちゃこんなきちんとした瓶になんて入っていません……!」
レギーナは「自分が今まで淹れていたお茶は、袋にそのままガサッと入っていたのに!」と声をあげる。
「もらいものだ。ここで、茶を出してもらってるからな」
とロルフは言うが、それでも素直に受け取ることがレギーナには難しい。
「ですが……」
「もし、どうしてもあんたが気にするっていうなら、俺たちが来た時だけに淹れてくれればいい。自分一人の時は、修道院から持ってきた茶葉で飲めばいいさ。ねえ、それだって量は限られているだろう? そうしたら、それを買いに行きたいと思わないか?」
「そ、そ、そうでした。まあ、わたしったら!」
袋から瓶を出せば、美しい瓶に茶葉が詰まっている。そんな美しいものをレギーナは初めて見た。なんて綺麗なんだろうと思いながらそれを見ていたら、無意識のうちに涙が目の端にあふれてくる。
「レギーナ?」
「なっ、なんでもありません! なんでも……!」
「どうした」
「その……こんな素晴らしいものをいただけるなんて……夢みたいだと思って……あれっ、止まらない……」
何故か、次から次に涙が溢れてくる。レギーナは受け取った茶葉を胸にしっかりと抱きながら俯いた。
思い出すのは修道院での毎日。何も特に不満などなかった日々。いや、なかったわけではない。だが、いつの日か日々に忙殺されて、不満を口にしなくなっただけだ。もっと色々大修道院長にあれこれと言いたかったが、そうしたところでどうにもならないことをレギーナは知っていた。
だから、彼女は悩んだ。修道院にいるみなが元気で健やかでこの先も暮らせるにはどうすればいいのかと思った。そして「わたしが稼いでくればいいんだわ!」という結論が出た。
彼女は、もらった茶葉を見た瞬間「修道院のみんなに飲ませてあげたい」と思った。けれど、それは叶わないことだ。いや、給金を送る時に一緒にこの茶葉も送ればいいとは思う。だが、さすがに修道院にいる子供たち、いや、子供を抜いて大人だけでも、全員に茶を出したら2度程度でなくなってしまうだろう。それぐらいの量。そう思えば、これを送ることなぞ出来やしない。
そんなことを、ぐるぐると考えた。考えていたら、よくわからないけれど涙が出て来た。なんとなく修道院が恋しい。ここで1人離れの手入れをしているだけの日々は、少しだけ寂しい。そんな思いもあれば、ロルフの優しさが染みたり、クルトとクラーラに実は救われていたのは自分の方ではないかとも思ったり。レギーナはぐるぐるとあれこれ考えて、ただ、なんだか泣きたい気分になったのだ。
もちろん、どうして泣いているのかをロルフにうまく説明は出来ない。だが、彼もそれを彼女に尋ねず「泣き止んだら、笑顔になってくれよ」と穏やかに言って、何故かレギーナの頭を撫でた。何度も何度も撫でる優しいその手は、まるで大修道院長のようだ、とレギーナは思う。
それが、駄目だった。大修道院長を思い出せば、もう涙が止まらない。レギーナは「ごめんなさい……」と呻いて、体を折った。ロルフは、彼女の背を軽く抱いて「大丈夫。大丈夫だから」と彼女に優しく言い聞かせるのだった。