修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「落ち着いたか?」

「はい……」

「悪いな。俺が持って来た茶葉で……」

「いいえ、いいえ、全然、そんな……」

 庭園のベンチに座って、ようやく落ち着いたレギーナ。貰った茶葉を大事に胸にかかえたまま、目を軽くこする。

「わたしの方こそ、お恥ずかしい姿を見せてすみません。そのう……」

「うん」

「わたし、本当は修道院から貰い手がみつかって……結婚をするはずだったんです」

「えっ……そう、なのか」

 ロルフは少し大きな声を出した。が、レギーナはそれをどうとも思わないように話を続ける。

「はい。でも、お相手が浮気をしていて……別に、浮気はいいんです。そもそも、修道院にいるわたしのような者に縁談を持ち込んでくれるだけ、本当にありがたくて。でも、ただ、浮気をしていたけれど、何人ぐらいのお相手がいて、わたしは本当に本妻になれるのかって尋ねただけだったんですけど……」

「うん……」

「何か勘違いをなさって……わたしが、浮気を責めていると思われたみたいで。お相手に……『お前のような女が浮気をどうこう文句を言える立場だと思っているのか』とか……いろいろと言われて、一方的に婚約破棄になってしまい……」

 ロルフの表情が変わる。眉間にしわを寄せて「どこのどいつだ、そんなことを言い出したのは」とレギーナに尋ねたが、彼女は首を横に振った。

「いえ、いえ、いいんです! それで、婚約破棄になって……ただ、わたしの結納金で修道院の支出の一部をまかなう予定があってですね……それがなくなってしまったので、しばらくお茶も飲めない時期があって……」

「そうか……」

「それを思い出したら、ちょっと、こう……ああ~、恥ずかしい……こんな話っ……ごめんなさい! もう大丈夫です!」

 レギーナは無理矢理笑顔を作った。が、ロルフはそんな彼女にもう一度「そうか」と言いながら、少し悲し気な表情を見せる。

「ロルフさん?」

「……俺の母は、愛妾でさ」

「あいしょう……?」

「妾というやつだ。クルトとクラーラは違う。2人は本妻の子供だ」

 いまひとつ、妾、本妻、という関係性が世の中にどれほどあるのかも理解せず、ただレギーナは「ああ、お母さまが違うのだ」とだけ理解をした。
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