修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「だが、彼らを産んでほどなく本妻が死んでしまったらしくてさ。父はその後で後妻と結婚をしたが、やはり2人を可愛がってはくれなくて……クルトとクラーラを守ってやれる人間がいなかったんだ。俺も、本当は今も彼らと会える立場ではなく……だが、クルトがどうしても俺に会いたがって……クラーラも、一か月以上クルトと離れ離れにならなければいけないのが辛いので、クルトが俺に会いに来る時に時間を合わせて出てくるんだが……」

「?」

 話がよくわからない、とレギーナは思ったが、まずは最後まで聞こうと耳を傾ける。

「俺も、隔日で2時間ほど庭園に出る許可をもらっただけでさ。本当は庭師の仕事なんてものは、口実だ。クルトが俺に会いたがるから、やっているようなものだ。本当は今日も……ここにいてはいけないんだが……いや、それはいいんだ。愛妾とはいっても、俺を産んでから15年後に『そうなった』だけでさ。無理矢理連れ戻されて……」

「……?」

「けれど、財産目当てだとか、なんだとか、色々と言われて。何をしてもケチをつけられていた。欲しくもないのに毎月金を与えられたが、何も買わずに母と過ごしていた。しかし、それをまた金目当てで金をたんまりため込んでいると人々は噂をするし、かといって、何かを買えば、金遣いが荒いと言われる。仕方がないので、俺は週に3回庭園で仕事をするので、それに対する給金だけを貰えれば良いと頼んだんだが、それですら文句を言うやつは言う」

「そう、なんですか」

 あまりはっきりしたストーリーは見えなかったが、それでも彼自身の境遇はあまり「よろしくない」のだとレギーナはなんとなく理解をした。

「次は、その給金が高すぎると。では、安くしてくれと頼めば、メーベルト伯爵邸の庭を手入れする給金を安くしようというのか、と文句を言われる。そんなことを言うようなやつらとは、縁を切りたいが、なかなか切れなくてな……挙句、母はもう面倒だと一人で逃げてしまった」

 一体何をロルフは言いたいのか、とレギーナは黙って聞いていた。が、ロルフは急にふわりと笑って

「どうだい。あんたが身の上を話してくれたので、俺も身の上を話してみたよ。これで等価ってことでいいかな。あんただけが恥ずかしがらなくていいように」

「まあ!」

 それまでの生真面目な話をしていた彼は嘘のように、穏やかな笑み。レギーナはそれを「うふふ」と笑った。

「変なの。ロルフさんは、おかしな人ですね!」

「そうかな」

「そうですよ! でも、ありがとうございます。わたしのことを気にしてくれて。それに、えっと、お話はよくわからなかったけれど……ロルフさんも大変だったんですね」

 レギーナはそう言って、ロルフをじっと見つめた。が、彼は首を横に振って

「いや、みんな、過ぎたことだ。俺はもう、今はあの2人が幸せになってくれればそれでいいと思っているぐらいだからさ……」

「いいお兄さんですね」

 そういってレギーナが笑えば、ロルフは照れくさそうに「そうかな」と小さく呟く。それへ、レギーナは「そうですよ!」と明るく答えた。
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