修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません

8.誘拐

「はあ……昨日のあれは夢だったのかしら……?」

 翌日、レギーナは起きて身なりを整えながら独り言を呟いた。いや、夢のわけはない。まず、テーブルの上にはロルフが持ってきてくれた茶葉が置いてある。

(うう、何度も思い出してしまうわ!)

 泣いてしまった自分を反省するのはともかくとして。
 昨晩もぐるぐる考えてしまったが、眠って目覚めても同じことを考えてしまう。

 ロルフに頭を撫でられて。それから彼は自分の背に手を回して、泣き止むのをずっと待っていてくれた。そして、最後には、頬に残っていた涙をぬぐってくれた……ような。そうではないような気がする。

(大体、頬にきっと涙なんて残ってなかったと思うのよね……気が動転してたからよくわからなかったけど……でも、そうだとしたら、あれは何……?)

 あれは何だったのか、と思うと、まったくわからない。わからないが、なんだか恥ずかしい。そして、それらを思い出すと共に、今度はそれより前、クルトとロルフが喧嘩でもない喧嘩をしたあの日、彼の頭を撫でていたことを思い出す。次から次へと、朝からレギーナの心は忙しい。

「うう、どうしよう、わたしったら、惚れっぽいのかしら……こんな……ああ、ああ、もう、わたし、しっかりして!」

 そう言って、レギーナは両手で自分の頬をパンッと軽く叩いた。

「今日は、町に行かなくちゃいけないんだから……!」

 レギーナは休暇をとって、給金を修道院に送る手配をするために町に向かった。メーベルト伯爵邸を出て辻馬車に乗って町に行き、そこで初めてのギルドに足を運んだ。ロルフが言っていたように「届け制度」を扱っているギルドで、彼女は緊張をしながらもサインをして、トイフェル修道院に金を届けてもらう依頼をした。

 行きは辻馬車を使ったが、思ったよりも距離が遠くなかったので、帰りは徒歩で戻る。途中の雑貨店で「クラーラにあげたら使ってくれるかしら」と思う可愛い髪飾りがあったが、それをあげるとなるとクルトには何をあげたらいいのか悩み、とりあえず保留にした。

(なるほど。ロルフが言ってたのは、こういうことなのね。自分の買い物……自分のものではないけれど、それでも自分のお金を使いたいと思うことがあるのね)

 そして、もしクラーラとクルトに何かを買うとしたら。それなら、ロルフにだって何かを買ってあげたいと思う。とはいえ、残念ながら彼女は修道院育ちのため、一般的に男性は何を贈られれば喜ぶのかが全然わからない。
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