修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
 結局雑貨屋を出て帰路についた。次回の給金が出たら、その時に考えようなど思いつつ、町中を歩いていく。

「……あっ!」

 メーベルト伯爵邸に戻る途中、ふと気づく。今日はもしかして、クルトとクラーラが来る日ではなかっただろうか。しまった、今日は休みだと彼らに告げていない……と。

(でもまあ、離れにいってわたしがいなければ、おとなしく本館の方に戻るでしょう)

 そんなことを考えながら呑気に一時間かけて歩き、メーベルト伯爵邸に戻った。が、見ればどうも伯爵邸の門の付近に人が何人も集まっていて騒がしい。

 すると、彼女を見た門兵は

「いたぞ! あいつだ!」

と声をあげる。

 一体何だろう、とレギーナは首を傾げた。すると、メーベルト伯爵邸から数人の兵士が出て来て、レギーナに向かって走り、彼女の周りを囲む。

「えっ、えっ、え?」

「ひっとらえろ!」

「えっ? 何、何ですか、何ですか……?」

「クルト様をどうやってさらったんだ!?」

「え……」

 何を言われているのか、まったく意味がわからなかったが、兵士の一人がレギーナの腕を強くつかみ、がしゃん、とその手に枷をつける。そこまでされて、ようやくレギーナは「何かよくないことが起きている」ということに気付いた。

 手枷を引っ張られて無理矢理メーベルト伯爵家の門を通過し、中に入る。と、そこに、たったった、と軽い足音が聞こえた。

「ちょっとどいて! レギーナは関係ないわ! 絶対絶対関係ないんだから!」

「クラーラ!?」

 見れば、随分と綺麗なドレスを身に纏ったクラーラが、息をはぁはぁと切らして走って来る。そんな恰好をしている彼女を見るのは初めてで、レギーナは目を大きく見開いた。

「クラーラ様、ですが!」

「絶対絶対違う! レギーナはそんなことはしない!」

「しかし、カルゼ様のお話では……」

「クラーラ様、近づいてはいけません!」

「いいから、こいつを牢につれていけ! 話はその後からだ!」

 ぐい、と手枷を引っ張られてレギーナはぐらりと体を横に引っ張られる。寸でのところで転ばずに済んだが、兵士は大股で強引にどんどん歩いていき、レギーナはそれについていくのに必死だ。そして、彼女の背後にクラーラの声が何やらぎゃんぎゃんと聞こえていたが、レギーナは混乱をしていたため、まったく聞き取れず、ただ兵士についていくだけで精一杯だった。
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