修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
 そんなわけで、メーベルト伯爵邸の侍女になったレギーナだったが、職場の環境は想像とまったく違っていた。彼女が担当する場所は、メーベルト伯爵邸の「離れ」の一つ。

 大きな邸宅の離れと言えば、一つのそれなりの棟を指すことがほとんどだが、その離れは相当小さく、離れの近くはなんだか鬱蒼としている。建物の内訳は、部屋が3部屋のみ、なんとそのうちの一部屋がレギーナの部屋なのだと言う。

 話を聞けば、メーベルト伯爵邸には5つもの小さな離れがあるらしい。そして、伯爵の次期候補者が「候補選定」の時にそれぞれ1つずつ離れに入り、互いに接触をせずに一か月から二か月そこで過ごし、かつ、現伯爵からの課題をこなす……というしきたりが長きに渡ってあったのだと言う。

 要するに、彼女は「いつ使うのかわからない」離れを綺麗に維持するためだけに雇われた侍女であり、逆を言えば「それ以外のことは期待されていない」ようだった。食事は本館から朝番運ばれるし、昼だけ自分で作れば良い。離れの清掃チェックは週に一度だと聞いている。そう思えば、これはなかなか良い仕事ではないかと思う。

「とはいえ。これでは伯爵様に近寄れないわ……!」

 それだけは、大問題だった。が、彼女は律儀なところがあったので、まずはきちんと離れの清掃を始める。毎日清掃をするといっても、エントランスに客室三部屋に倉庫に厨房にと案外と広い。その上、離れを囲んでいる庭園に出る通路や、庭園に置かれたベンチ類も範囲内らしい。

「案外と骨が折れるわね……でも、まっ、これぐらいならお安い御用よ!」

 と、自分を鼓舞して、髪を後ろで一つにまとめる。癖っ毛は、一つにしばっただけではまるでほうきのように先が広がってしまうため、三つ編みにしてぐるぐると巻き「よし!」と気合を入れた。何にせよ、働かなければ給金は出ない。それに間違いはないのだ。
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