修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「一体クルトをどこにやったんだ!」

「し、知りません……わたし……何も……」

「知らないだと? クルトは週に3回、お前がいる離れにいっていたそうじゃないか? お前がいた離れを捜索したが、誰もみつからなかった。クルトを家の外に出した手引きをしたんじゃないのか!?」

「違います……違います。何も。今日はクルト様にお会いしていません……」

「嘘をつけ! 今日はお前のところに行く日だったんだろう? どうやって誰にクルトをさらわせたんだ? そのため、お前は町に行ってきたんだろうが!」

「違います! わたしは、修道院にお金を送りにいっただけです……!」

「ほお~、トイフェル修道院は金が欲しいんだろうからなぁ~、俺たち、メーベルト伯爵の息子をさらって、一体どうするつもりだったんだ!?」

 レギーナは「あれ?」と思う。

 トイフェル修道院に金銭的余裕がないことは本当だ。だが、レギーナ自身は「修道院」としか口に出していない。

(わたしがトイフェル修道院から来たことを知っている? 確かに、こちらにお世話になる時に履歴書のようなものを提出したけれど……)

 だが、目の前にいる男性は「俺たちメーベルト伯爵の息子」と言っていた。要するに、クルトと同じ立場。ロルフと同じ立場。だが、ロルフはトイフェル修道院のことを知らなかった。きっと、クルトもそうなのだろうと思う。

(この人……)

 怪しい。そうレギーナは思い、だが、どうすればよいのかわからずにおろおろしていると、牢屋部屋の外から「おい」と声がかかった。

「カルゼ。離れに戻れ。いくらクルトが心配だからとはいえ、お前は今日離れから出すぎだ。後継者になりたければ、さっさと戻るんだな」

「はっ! こっちは、誰かさんのように自由になる時間を与えられないもんでな。いいよなぁ~、特別扱いは、さ! 庭の手入れ? ハッ、馬鹿馬鹿しい。そんなもののためだけに雇われて、この家に置いてもらってることを感謝しろよ! どうせ、あと2日で後継者選びは終わるしな」

 カルゼ、と呼ばれたその男は舌打ちを一つして、兵士2人を連れさっさとその場を離れた。その後から、一人の男性がレギーナの牢に向かって歩いて来る。ロルフだ。

「すまない。わたしがもっとクルトに注意をしていればよかった。あんたが今日いないことはわかっていたから、そちらの離れに行くんじゃないといっていたのだが……」

「ロルフ……」

 見れば、ロルフは質が良いローブを着ていた。そのローブの下もあまりにも質が良い服をまとっている。もう、彼がこの家の後継者候補であることは疑いようがない。いつも、土で汚れていた服を着ていたが、そんなものを彼が着ることが信じられないほど身綺麗だ。
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