修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「クルトはどうしたんですか? さらわれたんですか? 一体誰に……」
「わからない。だが……クルトが、次期後継者の第一候補だから、それのせいだとは思う」
「ええっ!? あの年齢で?」
「あいつはああ見えて、既に多くの学問を習得している。クラーラもそうだ。だから、みんなは本当はクルトを後継者にしたいんだ。そうなると、疑われるのは、カルゼか俺なんだが……」
勿論ロルフがそんなことをするはずがないとレギーナは知っている。
「ロルフも後継者候補なんですか?」
「ああ。残念ながらな。だが、俺はクルトを次期当主にしたいと思っている」
「それじゃあ、もう犯人はわかったってことでは……?」
「そうとも言うんだが、証拠がなくてな」
要するに、先ほどあれこれと文句をつけてきたカルゼが犯人ではないか、ということだ。レギーナはハッとなって早口でまくし立てた。
「ロルフ。あの、さっきの人、わたしがトイフェル修道院出身だってわかっていたみたいで……」
それを聞いたロルフは眉を寄せる。
「何だって?」
「それで、わたし、自分がトイフェル修道院出身だっていうのをね、履歴書に書いたんだけど……それって、ロルフも、クルトも見られるのかしら?」
「いや。見られない。侍女や使用人の面接は、執事と侍女長の担当で、勿論伯爵である父上ですら、使用人たちの素性はほとんど知らなかったはずだ……ということは……」
侍女長とカルゼが繋がっているということだ。レギーナは「ああ、もしかして」と思う。考えれば、離れについての説明など、なんとなく腑に落ちない、要するに「丁寧ではない」と感じていた。それは、もしかして。
(最初からわたしを捨て駒にするために雇ったのかもしれない……)
すると、ロルフはローブを脱いで、牢の鉄の柵の合間からそれを差し入れた。
「レギーナ。寒くなるかもしれないから、これを羽織って。必ず、俺があんたをここから出して見せるから、待っていてくれ」
「ありがとう……! わかりました。わたし、待っています……」
こくりとロルフは頷いた。それから、鉄の柵の間から手を伸ばし、レギーナの頭を撫でる。
「申し訳ない。こんなことに巻き込んでしまった。食事は差し入れるようにする。心配をせずに、待っていてくれ……」
しばらく、ロルフとレギーナの視線が絡む。それ以上、レギーナは何の言葉もでなかったし、ロルフからも何の言葉もなかったが、互いに何かを伝えたい気持ちがそこにはあった。
ロルフは真剣な表情で「じゃあ」と言って背を向けた。それへ、レギーナも「はい」と返すだけ。
こんな状況なのに、レギーナの胸はなんだかぽかぽかしていた。とはいえ、反面、ロルフたちの正体を知ったことで愕然ともしている。あまりにいろんなことが起こりすぎて、レギーナは混乱をしていたが、最後にはただただクルトが無事でありますようにと祈りつつローブを羽織った。少し、ロルフの温もりが残っていて、彼女はベッドに座ってぎゅっと目を閉じた。
「わからない。だが……クルトが、次期後継者の第一候補だから、それのせいだとは思う」
「ええっ!? あの年齢で?」
「あいつはああ見えて、既に多くの学問を習得している。クラーラもそうだ。だから、みんなは本当はクルトを後継者にしたいんだ。そうなると、疑われるのは、カルゼか俺なんだが……」
勿論ロルフがそんなことをするはずがないとレギーナは知っている。
「ロルフも後継者候補なんですか?」
「ああ。残念ながらな。だが、俺はクルトを次期当主にしたいと思っている」
「それじゃあ、もう犯人はわかったってことでは……?」
「そうとも言うんだが、証拠がなくてな」
要するに、先ほどあれこれと文句をつけてきたカルゼが犯人ではないか、ということだ。レギーナはハッとなって早口でまくし立てた。
「ロルフ。あの、さっきの人、わたしがトイフェル修道院出身だってわかっていたみたいで……」
それを聞いたロルフは眉を寄せる。
「何だって?」
「それで、わたし、自分がトイフェル修道院出身だっていうのをね、履歴書に書いたんだけど……それって、ロルフも、クルトも見られるのかしら?」
「いや。見られない。侍女や使用人の面接は、執事と侍女長の担当で、勿論伯爵である父上ですら、使用人たちの素性はほとんど知らなかったはずだ……ということは……」
侍女長とカルゼが繋がっているということだ。レギーナは「ああ、もしかして」と思う。考えれば、離れについての説明など、なんとなく腑に落ちない、要するに「丁寧ではない」と感じていた。それは、もしかして。
(最初からわたしを捨て駒にするために雇ったのかもしれない……)
すると、ロルフはローブを脱いで、牢の鉄の柵の合間からそれを差し入れた。
「レギーナ。寒くなるかもしれないから、これを羽織って。必ず、俺があんたをここから出して見せるから、待っていてくれ」
「ありがとう……! わかりました。わたし、待っています……」
こくりとロルフは頷いた。それから、鉄の柵の間から手を伸ばし、レギーナの頭を撫でる。
「申し訳ない。こんなことに巻き込んでしまった。食事は差し入れるようにする。心配をせずに、待っていてくれ……」
しばらく、ロルフとレギーナの視線が絡む。それ以上、レギーナは何の言葉もでなかったし、ロルフからも何の言葉もなかったが、互いに何かを伝えたい気持ちがそこにはあった。
ロルフは真剣な表情で「じゃあ」と言って背を向けた。それへ、レギーナも「はい」と返すだけ。
こんな状況なのに、レギーナの胸はなんだかぽかぽかしていた。とはいえ、反面、ロルフたちの正体を知ったことで愕然ともしている。あまりにいろんなことが起こりすぎて、レギーナは混乱をしていたが、最後にはただただクルトが無事でありますようにと祈りつつローブを羽織った。少し、ロルフの温もりが残っていて、彼女はベッドに座ってぎゅっと目を閉じた。