修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
 その晩レギーナは冷たい牢屋のベッドの上で、丸まって眠れぬ夜を過ごしていた。牢の中では時間の経過がゆっくりな上、正確な時間も把握出来ない。だが、どんどん気温が下がっていくのを感じて、とっくに夜になったのだということだけはわかる。

「大丈夫……大丈夫よ……」

 これから自分はどうなるんだろう。いや、ロルフが助けてくれると言っていたし、きっと大丈夫だ。朝が来るのをただ待てばいい……そう思っても、数分経過すれば不安な気持ちが大きくなって、泣きたくなる。

 薄い毛布が一枚あったが、確かにそれだけでは少し肌寒い。ロルフから借りたローブが寒さを凌ぐのに役立っている。本当にありがたい……そう思うと、じわりと目の端に涙が浮かんでくる。

(昔……冬、とても寒かった時……修道院のみんなで集まってくっついて寝たことがあったっけ……)

 修道院には固いベッドがあり、みな普段はそこで1人ずつ眠っていた。だが、とある冬のある日、10年や20年に一度の寒波がやって来て、普段使っている毛布では寒さを凌げなくなってしまった。

 子供たちを集め、暖炉の近くでみなでくっつきあって2日ほど眠った記憶。互いにくっついても少し寒い。だが、それでも僅かなお互いの温もりでなんとか寒さを凌いでいた。

 だが、ここには誰もいない。1人ぼっちだ。レギーナはもぞもぞと毛布の中で体を丸める。

(でも、ロルフが貸してくれたこのローブのおかげで……少しだけ温かい……)

 それがどれだけ心強いか。

(夜は、よくないことを考えてしまうわ。出来るだけ。出来るだけ明るいことを……)

 そう思っても、クルトは大丈夫だろうかとか、彼らがメーベルト伯爵の後継者だったとはとか、同じことをぐるぐる考えてしまう。そして、自分はどうなってしまうんだろう……レギーナは「駄目」と呟いた。

(もっと冷える前に、眠ってしまいたい……このローブで寒さを凌げているうちに……)

 ふと思い出す、ロルフの手。彼の手に握られた時のぬくもり。頭を撫でられた時の感覚。それから。背に手を回された時の……。

(ああ……わたし……)

 彼のことが好きだ。こんな冷たく寒い牢の中で、彼のことを考えると少しだけ胸の奥が熱くなる気がする。そして、目の端に浮かんだ涙が熱いことにもレギーナは気付いた。

(馬鹿ね。こんな時に……こんな時に、ロルフのことを……)

 更にぎゅっと丸まって、大きなローブの布を手で手繰り寄せる。今度は、違う意味で眠れなくなりそうだった。
< 34 / 49 >

この作品をシェア

pagetop