修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「レギーナは、今本館でのクラーラの権限で守られていることを忘れたか? そのおかげでこちらは安心をして調べることが出来た」
「し、調べる!? 何のことだ!」
「まったく考えなしだな、お前は。だが、おかげでクルトを本当にさらって売り飛ばしもせずに放置してくれたんだから、それは感謝すべきことだろう」
そう言って歩いていくロルフ。それにカルゼは更に追いすがろうとした。しかし。
「メーベルト伯爵家の本館において。クラーラ・メーベルトの名をもって命ずる。カルゼ・メーベルト。黙りなさい。そして、ここで反省しなさい」
クラーラのその言葉に、カルゼは体を強張らせた。そうしている間にもロルフは本館を出て離れに向かっていく。だが、カルゼはその場から動くことが出来なかった。
現在、このメーベルト伯爵家の本館には、唯一の権限を持つ者が一人いた。それは、次期後継者候補ではなく、かつ、本妻の子供。唯一の直系であるクラーラだ。後継者選びを行って候補者が離れにいる間、そして伯爵不在の今、実質クラーラが本館での最有力者なのだ。そして、次期候補者が決まれば、その者に権限を譲る。本館、と言っているのは、その他の場所の権限を持たないということだ。だが、それで今はよかった。何故なら、牢屋は本館の奥の地下にあるからだ。
彼女は前日に自分がレギーナを守れなかったことに腹を立てた。しかし、実権を持っていても一度牢屋に収容されてしまえば、無実を証明しなければ出られない。なので、ひとまず牢屋部屋での見張りを自分の護衛騎士にすり替え、カルゼであろうが誰であろうが通さない、クラーラの許可なしではレギーナに会えないようにと命じた。彼女のその采配のおかげで、ロルフは安心して他のことを調べることが出来た。
「カルゼ、わたしのこと、何もわからない子供だと思ってるでしょ。クルトのこともそう思ってるでしょ。そして、ロルフおにいちゃんのことは、もっともっと馬鹿にしてたでしょ」
「あ、当たり前だ、大体あいつは愛妾の子供で……ずっと、このメーベルト伯爵家から出て平民の生活をしていた奴だ! 何の学もなければ、根性もない、出来ることと言えば、庭師の仕事だけだと言うじゃないか! そんなやつ……」
「ほんと、ばっかみたい!」
そう言ってクラーラはどんどんと足を踏み鳴らした。
「平民として生活していたからこそ、おにいちゃんは領民の人々のことを知っているんだから。あんたみたいに、このメーベルト伯爵家の金をどう自分のために使おうか、なんて考えているやつになんて、絶対絶対後継者になれっこないわ! 今まで散々我慢してきたけど、言ってあげる。あんたが使用人たちに金を配って、後継者選びを優位に運ぼうとしたことだって、わかってんのよ!」
癇癪持ちの子供のように彼女は叫んだが、その内容はまっとうだ。だが、カルゼはそれでもひるまない。
「それの何が悪い? そもそも、どれほど能力があってもクルトは子供だろう。その上、ロルフは何の知識もない。だっていうのに、この屋敷のやつらや傍系のやつらは、勉強が出来るからってクルトを推すとか言い出す始末だ。そいつらの目を覚まさせてやらなくちゃいけないだろう!?」
「はあ~、目を覚ますのはあんたの方でしょ! 結局クルトに勝てないからってあれこれお粗末な策を弄したってことなのね。ほんっとどうしようもないわね! やっぱりあんたになんか次期当主は継がせられないわ! 何もしなけりゃまだ可能性があったのに!」
クラーラがそう言えば、カルゼは「なんだと!?」と言って食って掛かろうとした。が、そこは彼の護衛騎士が「おやめください!」と止める。
「カルゼ様、いけません。クラーラ様は現在のメーベルト伯爵家で……」
「うるさいうるさいうるさい! どいつもこいつも、俺を馬鹿にしやがって……!」
クラーラは静かにカルゼを憐れみの視線で見るだけだった。
「し、調べる!? 何のことだ!」
「まったく考えなしだな、お前は。だが、おかげでクルトを本当にさらって売り飛ばしもせずに放置してくれたんだから、それは感謝すべきことだろう」
そう言って歩いていくロルフ。それにカルゼは更に追いすがろうとした。しかし。
「メーベルト伯爵家の本館において。クラーラ・メーベルトの名をもって命ずる。カルゼ・メーベルト。黙りなさい。そして、ここで反省しなさい」
クラーラのその言葉に、カルゼは体を強張らせた。そうしている間にもロルフは本館を出て離れに向かっていく。だが、カルゼはその場から動くことが出来なかった。
現在、このメーベルト伯爵家の本館には、唯一の権限を持つ者が一人いた。それは、次期後継者候補ではなく、かつ、本妻の子供。唯一の直系であるクラーラだ。後継者選びを行って候補者が離れにいる間、そして伯爵不在の今、実質クラーラが本館での最有力者なのだ。そして、次期候補者が決まれば、その者に権限を譲る。本館、と言っているのは、その他の場所の権限を持たないということだ。だが、それで今はよかった。何故なら、牢屋は本館の奥の地下にあるからだ。
彼女は前日に自分がレギーナを守れなかったことに腹を立てた。しかし、実権を持っていても一度牢屋に収容されてしまえば、無実を証明しなければ出られない。なので、ひとまず牢屋部屋での見張りを自分の護衛騎士にすり替え、カルゼであろうが誰であろうが通さない、クラーラの許可なしではレギーナに会えないようにと命じた。彼女のその采配のおかげで、ロルフは安心して他のことを調べることが出来た。
「カルゼ、わたしのこと、何もわからない子供だと思ってるでしょ。クルトのこともそう思ってるでしょ。そして、ロルフおにいちゃんのことは、もっともっと馬鹿にしてたでしょ」
「あ、当たり前だ、大体あいつは愛妾の子供で……ずっと、このメーベルト伯爵家から出て平民の生活をしていた奴だ! 何の学もなければ、根性もない、出来ることと言えば、庭師の仕事だけだと言うじゃないか! そんなやつ……」
「ほんと、ばっかみたい!」
そう言ってクラーラはどんどんと足を踏み鳴らした。
「平民として生活していたからこそ、おにいちゃんは領民の人々のことを知っているんだから。あんたみたいに、このメーベルト伯爵家の金をどう自分のために使おうか、なんて考えているやつになんて、絶対絶対後継者になれっこないわ! 今まで散々我慢してきたけど、言ってあげる。あんたが使用人たちに金を配って、後継者選びを優位に運ぼうとしたことだって、わかってんのよ!」
癇癪持ちの子供のように彼女は叫んだが、その内容はまっとうだ。だが、カルゼはそれでもひるまない。
「それの何が悪い? そもそも、どれほど能力があってもクルトは子供だろう。その上、ロルフは何の知識もない。だっていうのに、この屋敷のやつらや傍系のやつらは、勉強が出来るからってクルトを推すとか言い出す始末だ。そいつらの目を覚まさせてやらなくちゃいけないだろう!?」
「はあ~、目を覚ますのはあんたの方でしょ! 結局クルトに勝てないからってあれこれお粗末な策を弄したってことなのね。ほんっとどうしようもないわね! やっぱりあんたになんか次期当主は継がせられないわ! 何もしなけりゃまだ可能性があったのに!」
クラーラがそう言えば、カルゼは「なんだと!?」と言って食って掛かろうとした。が、そこは彼の護衛騎士が「おやめください!」と止める。
「カルゼ様、いけません。クラーラ様は現在のメーベルト伯爵家で……」
「うるさいうるさいうるさい! どいつもこいつも、俺を馬鹿にしやがって……!」
クラーラは静かにカルゼを憐れみの視線で見るだけだった。