修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「あっ、あの、その、えーっと……」

「両手首にあるな……手枷か」

「そ、そうみたい、です」

「……あいつら……」

 ロルフの形相が変わる。驚いてレギーナは「大丈夫です! 大したことはありません!」と言うが、ロルフはむっとした表情で「それも手当てをしなければ」と返した。

「この程度の擦り傷、そのう、舐めておけば治ります……」

「レギーナ」

 ロルフは彼女の両肩に手を置いた。

「それは、不当に受けた傷だ。それをあんたは怒る権利があるし、当然手当てをしてもらう権利もある」

「えっ、でも、あの……」

 と口ごもってから、ハッとレギーナは声をあげる。

「あっ、あの、クルトは……クルトは、どうなりましたか……?」

「ああ、クルトは見つかった」

「本当ですか! 良かった! 良かったです……!」

 そう喜ぶレギーナの横で、先ほど牢に入ったらしい女性の金切り声があがった。

「ロルフ様、ここから出してくださいませ! 何かわたくしのことを誤解なさっていらっしゃいます!」

 レギーナはそちらをちらりと見たが、彼女の腰をロルフは抱いて、わざとそちらを見ないようにと向きを変える。

「まず、ここから出よう」

「えっ、あっ、はい……」

 ロルフの手に押されながら、レギーナは歩き出す。ちょうどクラーラが戻って来て「湯あみの準備をしてくれるって!」と明るく2人に言った。

 ロルフとレギーナの前後には護衛騎士が1人ずつ。そして、クラーラの後ろにも護衛騎士が2人。それぞれが目配せをして、彼らは冷静に付き従う。クラーラは自分の護衛騎士をその場に待たせて、牢屋部屋に入った。

 牢の中にいる侍女長が「クラーラ様! 誤解でございます!」と金切り声をあげた。だが、それへ冷たく言い放つクラーラ。

「何が誤解なの? 何も誤解じゃないわよね。レギーナに最初から罪をかぶせようとして、それで雇ったんでしょ? 他の離れには、本館の侍女をあてがっていたのにね」

「ですから、それが……」

「でも、レギーナを採用してくれたことには感謝してるわ! 侍女長、ありがとうね! トカゲの尻尾切りになっちゃうかもしれないけど、ま、お父様の後妻には今後権限を渡すつもりはないから」

 そう笑って、クラーラは牢屋部屋を後にした。
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