修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
 クルトは離れではなく本館の、元々の自室のベッドに入って安静になっていた。特に健康状態に問題はないし、たった一晩放置されていただけだったので、スープや柔らかいものを食べて、数日休むといいと医者に言われたらしい。

 レギーナは湯あみを終えて、温まった状態でクルトへの面会を許された。新しい侍女服に身を包んで、だが髪は結わずにおろした状態で彼女はロルフと共にクルトの部屋にやって来た。

「あっ、レギーナ!」

「ああ、ああ、クルト! 大丈夫だった?」

 レギーナは慌ててクルトの枕元にかけつける。すると、クルトは満面の笑みで、少し興奮しながらレギーナに早口でまくし立てた。

「うん。あのね、あのね、僕、草笛吹けたの」

「え?」

 突然何のことだとレギーナは呆気にとられたが、クルトの言葉は止まらない。

「レギーナが教えてくれた草笛、すっごく大きい音が出るんだね! あれを鳴らしてたら、クラーラが気付いてくれたんだ! 僕、うまくなったよ! 1人で心細くてしょうがなかったけど、でも、草笛の音が少しずつ大きくなってのがわかって、ちょっとおもしろかったんだ……!」

 まだしっかり教えていなかったのに、もう鳴らせるのか。さすが天才だ……いやいや、そういう話ではない、とレギーナはぶんぶんと首を振って

「そうなのね? ああ、無事でよかった。本当に。よかった……」

 力が抜けたのか、レギーナはすとんと床の上に座り込んで、ベッドで上半身を起こしているクルトの手をぎゅっと握った。

「クルト、今日はゆっくりここで過ごすといい」

「もう、離れにいかなくてもいい……?」

「それはどうかな。あと一日本当はあるんだが……先ほどクラーラが緊急会議の招集をかけたので、明日、一族が集まる。そこで、カルゼと侍女長がやったことを明るみに出して、そして後継者選びを続行するのなど、話し合うことになる」

「そっか……」

「明日、そこでクルトにも発言をしてもらうからな。今日は、ゆっくり休んで、明日に備えてくれ」

「わかった……ねえ、レギーナも? それに出るの?」

「そうなる。重要な参考人のような立場なので、レギーナには今日は本館に部屋を用意した。クラーラの権限でな」

 話がよくわからず、レギーナは「えっ?」と声をあげた。

「わたしも、今日は離れにはいかず、本館に泊まって明日を待つ。クルト、良く寝なさい」

「はーい! じゃあ、レギーナ、また明日ね」

「はっ、はい……」

 話がよくわからないが、レギーナはそう言ってクルトの手を握った。クルトもまたそれを握り返して、2人はお互い小さく笑い合った。
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