修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「あの、ロルフ」

「うん」

「ローブ……ありがとうございました……」

「ああ」

「あれがなければ、きっと昨晩は寒くて……寂しくて、眠れなかったと思います」

 寂しくて。その言葉にロルフは気が付いて、彼女を抱く腕に力を入れた。

「少しは、役に立っただろうか。あれしか出来なかったが」

「はい。とても、役に立ちました」

 わずかに彼の腕の力が緩む。レギーナはそれを見逃さず、さっと彼に向き合った。

「あのっ」

「うん?」

「わたし、ロルフのことが好きなようです……!」

 突然の告白に、ロルフは面食らう。しかも、どこか他人事のように言われて「好きな、よう?」と首を傾げた。

「は、はい。あのっ……多分。いえ、多分じゃなくて……」

 レギーナは勢いに任せて告白したものの……という雰囲気で困惑の表情を見せた。今更だ。自分で口火を切っておいて、いざ問われれば少し悩む。だが、その悩みは「自分はロルフを好きなのか」ではなく「自分の身分で言ってしまってよかったのか」の悩みだ。

「ごめんなさい。その……ロルフが、そんなすごい人だとは存じなかったので……」

「俺は、何もすごくない」

「でも、庭師ではないんでしょ?」

「庭師だよ。それ以外の時間、ちょっとだけここの世話になって、あれこれ勉強はさせられているけどよ、それもクルトに集中する目を分散させるためのものぐらいだった」

 そう言ってロルフは苦笑いを浮かべた。

「あの年の子がさ。後継者後継者ってうるさく言われて、色々詰め込まれちゃそりゃあ気もおかしくなっちまうだろ。むしろ、クラーラの方が向いているぐらいだ。だが、ここじゃあどうも男が継ぐことに決まってるみたいだからな……だから、俺はまあそこそこ……ちょっとは勉強してる、程度のもので……可能性はなくはない、ぐらいな感じにしてて……」

 そう言うと、ロルフは「そんなことはどうでもいい」と肩を竦めた。

「で? 俺がすごい人じゃなければ、好きなのか? それとも、すごい人だったら……まあそうか。メーベルト伯爵の女になりに来たんだもんな?」

「! あっ、あれは! あれは、忘れて……忘れてください!」

 そう言ってレギーナは両手の平をロルフに向け、ぶんぶんと横に振った。その手首には包帯が巻かれている。それを見たロルフが

「……やっぱ。あいつぶん殴らないと気が済まねぇな……そんな怪我させといて……」

と低く言ったので、慌ててレギーナは彼の服を握った。

「あのっ、大丈夫です! 大丈夫ですからっ……本当にこれは大袈裟なものでっ」

「人の女に手ぇ出したも同然だろうが。許せねぇ」

「えっ、えっ?」

 そう言って、ロルフはその部屋から出て行った。レギーナは「待って!」と言ったが、彼は待たない。バタン、と荒くドアが閉まり、それを彼女は呆然と見つめるだけだった。
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