修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「あっ、あのう、ロルフ……」

「うん」

 わたしは、あなたの女とやらですか? そう尋ねようか思いつつ、いや、だが……と困惑をするレギーナ。どう聞けばいいのだろうかと思うものの、どう考えてもその言葉以外に思いつかない。

 すると、ロルフが先に口を開いた。

「確かに、俺の女という言葉は適切じゃなかったな。悪い。だけど、俺にとってレギーナは大事な人で」

「……はい……」

「俺は、あんたのことが好きだよ」

 はっきりと告げるロルフ。だが、彼のその声音は優しい。

「最初は双子のためを思って、あいつらとあんな風に遊んでくれるあんたが、ずっと傍にいてくれたらいいと思っていた。でも、今はそれだけじゃない。俺も、あんたの傍にいたいと思っている。今まで、後継者争いにあんたを巻き込むことは出来ないと思っていたから、あれ以上は踏み込めなかったが……」

 そう言うと、ロルフはレギーナが座るソファの後ろ側をぐるりと回る。彼は背もたれに手をついて、彼女の背後から顔を近づけた。

「あんたもそう考えてくれてると……そう思っていいのか」

 近づく彼の顔。その表情は真剣だ。レギーナはソファに膝をかけて後ろを向き、慌てて「あのっ」と声を出したが、すぐにその元気は失われる。恥ずかしい。照れくさい。だが、彼の質問に答えなければ……。

「わたしも……そう思っています……」

「そうか。じゃあ……あんたのキスを貰ってもいいか?」

「えっ」

「駄目と言われても、貰う」

 こんなに強引な人だったのか。レギーナはいくらかたじろいだが、近づいて来る彼の顔に「あ、もう駄目だ……」と瞳を閉じた。恥ずかしい。照れくさい。でも。

 唇が重なる。そして、一度ロルフは唇を離したかと思えば、もう一度彼女の唇をついばんだ。すると、ふわりと彼から上質な石鹸の香りがする。だが、そんな彼はカルゼをぶん殴って来たのだ、と思うと「ふふ」とレギーナは笑ってしまった。

「なんだ、キスの最中にさ……」

「だって……うふふ」

「なんだよ……」

「内緒です」

「ええ? 教えてくれるまで、キスするぞ……」

 キスをしていたら、教えられないじゃないですか……と、レギーナは思ったが、そんなことはロルフもわかっている。

 彼の手が優しくレギーナの髪を撫で、再びキスが唇に落ちてくる。ああ、本当に嬉しい……そう思いながら、もう一度レギーナは瞳を閉じた。

 勿論、何を言われて何があったのか、彼女がクラーラに話すことはなかった。
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