修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「ええっ!?」
レギーナは目を丸くする。
「そして、その上で、クルトとクラーラの遊び相手になってくれないか」
「えっ?」
ロルフの表情は真剣だ。
「あいつらは、まあ俗にいう天才でさ……とにかく、勉強がとんでもなく出来る。頭が良い。でも、まだまだ子供だ」
「……はい……」
「そんなあいつらに、何の隔てもなく遊んでくれたのはあんただけだ。あいつらは、あんたの前だけは年齢相応の顔を見せる。だから、しばらく、俺の世話をしつつも、彼らの相手をしてあげてくれないだろうか。お世話係というか……」
レギーナは困惑の表情を浮かべた。確かにそれは願ってもないことだが、こんな大事になってしまった上に、他の侍女たちと扱いが違う世話係になっても大丈夫だろうか……そう思って一瞬躊躇をした。
が、ロルフはそんな彼女の様子をうかがって
「俺の世話係とあいつらの遊び相手になれば、給金があがる。なんといっても、メーベルト伯爵代理人の世話と、未来のメーベルト伯爵の相手なんだしな」
「ううっ……そのう、ロルフの世話というのは、何をすればいいんでしょうか?」
レギーナはおずおずと尋ねた。すると、ロルフは「ははっ」と笑う。
「朝、俺を起こして、着替えさせて、俺が執務室にいっている間に部屋の掃除をすりゃいいだけだ。それで、たまに茶を持ってきてくれたらいい。多分な。父の世話係は大体そんなことをしていた気がする」
「えっ、え……き、着替え、させる?」
いささか頬を赤くしてたじろぐレギーナ。それへ、少しだけ意地悪をしたくなったのか、ロルフは「メーベルト伯爵の女になりに来たのに、それぐらいでへこたれるのか?」と言った。
「もお! からかわないでください! あれは、本当に、そのう、そのう、えっと……わ、わ、若気の至りというやつです!」
言葉の意味としてはいくらか間違っているのだが、勢いでレギーナはそう言った。ロルフは笑って「わかってるっての」と返す。
「ちょうどいい仕事ってのがなくてさ。クルトとクラーラの相手をする、って言っても毎日とは限らないし、朝から晩までじゃないからさ。だから、俺の面倒も一緒に見てくれよ。その、さ……俺も後継者代理とか言われても、正直困ってるし……」
ロルフのその言葉は本音のように聞こえる。
「あんたが、俺の傍で笑っていてくれたら、ちょっと頑張れる気がするんだけど」
「!」
レギーナは「そう言われると……」ともごもごとなる。とはいえ、それは公私混同というものではないか、だとか、しかし、自分がここに来たのも若干公私混同だったので、とか、ぶつぶつ呟く。
「ひとまずさ、それで受けてくれよ。おいおい、これじゃよろしくないとか、これだと何が困るとかさ、出てきたらその時に考えたらいいんじゃないか? な?」
「ロルフは、なんだか押しが強くないですか!?」
「馬鹿だなぁ……」
ははは、とロルフは笑う。
「言っただろ。あんたを後継者選びのごたごたに巻き込まないように、一応一線を引いてたつもりなんだってさ。それがなくなったら、そりゃあさ」
「で、でも、身分差、というものがですね……! うう、身分差。自分で言ってちょっとショックですけど……」
「あっはは、何を今更言ってるんだ? 俺は半分しか貴族の血は流れていないし、人生の半分以上は平民として生きて来たんだ。気にすることもないだろ?」
そう言って立ち上がると、彼はレギーナに手を伸ばす。一体何を? とレギーナはその手に掴まると、ぐいと立たされた。
「離れから、あんたの道具を持ってこよう。俺も手伝うからさ。使用人の部屋はもう用意をしてあるんだ」
「もう! 強引にもほどがあります!」
レギーナがそう叫ぶと、ロルフは「はは」と笑う。彼のその笑みを見れば、ついついレギーナも「もう!」ともう一度言いながらも微笑むのだった。
レギーナは目を丸くする。
「そして、その上で、クルトとクラーラの遊び相手になってくれないか」
「えっ?」
ロルフの表情は真剣だ。
「あいつらは、まあ俗にいう天才でさ……とにかく、勉強がとんでもなく出来る。頭が良い。でも、まだまだ子供だ」
「……はい……」
「そんなあいつらに、何の隔てもなく遊んでくれたのはあんただけだ。あいつらは、あんたの前だけは年齢相応の顔を見せる。だから、しばらく、俺の世話をしつつも、彼らの相手をしてあげてくれないだろうか。お世話係というか……」
レギーナは困惑の表情を浮かべた。確かにそれは願ってもないことだが、こんな大事になってしまった上に、他の侍女たちと扱いが違う世話係になっても大丈夫だろうか……そう思って一瞬躊躇をした。
が、ロルフはそんな彼女の様子をうかがって
「俺の世話係とあいつらの遊び相手になれば、給金があがる。なんといっても、メーベルト伯爵代理人の世話と、未来のメーベルト伯爵の相手なんだしな」
「ううっ……そのう、ロルフの世話というのは、何をすればいいんでしょうか?」
レギーナはおずおずと尋ねた。すると、ロルフは「ははっ」と笑う。
「朝、俺を起こして、着替えさせて、俺が執務室にいっている間に部屋の掃除をすりゃいいだけだ。それで、たまに茶を持ってきてくれたらいい。多分な。父の世話係は大体そんなことをしていた気がする」
「えっ、え……き、着替え、させる?」
いささか頬を赤くしてたじろぐレギーナ。それへ、少しだけ意地悪をしたくなったのか、ロルフは「メーベルト伯爵の女になりに来たのに、それぐらいでへこたれるのか?」と言った。
「もお! からかわないでください! あれは、本当に、そのう、そのう、えっと……わ、わ、若気の至りというやつです!」
言葉の意味としてはいくらか間違っているのだが、勢いでレギーナはそう言った。ロルフは笑って「わかってるっての」と返す。
「ちょうどいい仕事ってのがなくてさ。クルトとクラーラの相手をする、って言っても毎日とは限らないし、朝から晩までじゃないからさ。だから、俺の面倒も一緒に見てくれよ。その、さ……俺も後継者代理とか言われても、正直困ってるし……」
ロルフのその言葉は本音のように聞こえる。
「あんたが、俺の傍で笑っていてくれたら、ちょっと頑張れる気がするんだけど」
「!」
レギーナは「そう言われると……」ともごもごとなる。とはいえ、それは公私混同というものではないか、だとか、しかし、自分がここに来たのも若干公私混同だったので、とか、ぶつぶつ呟く。
「ひとまずさ、それで受けてくれよ。おいおい、これじゃよろしくないとか、これだと何が困るとかさ、出てきたらその時に考えたらいいんじゃないか? な?」
「ロルフは、なんだか押しが強くないですか!?」
「馬鹿だなぁ……」
ははは、とロルフは笑う。
「言っただろ。あんたを後継者選びのごたごたに巻き込まないように、一応一線を引いてたつもりなんだってさ。それがなくなったら、そりゃあさ」
「で、でも、身分差、というものがですね……! うう、身分差。自分で言ってちょっとショックですけど……」
「あっはは、何を今更言ってるんだ? 俺は半分しか貴族の血は流れていないし、人生の半分以上は平民として生きて来たんだ。気にすることもないだろ?」
そう言って立ち上がると、彼はレギーナに手を伸ばす。一体何を? とレギーナはその手に掴まると、ぐいと立たされた。
「離れから、あんたの道具を持ってこよう。俺も手伝うからさ。使用人の部屋はもう用意をしてあるんだ」
「もう! 強引にもほどがあります!」
レギーナがそう叫ぶと、ロルフは「はは」と笑う。彼のその笑みを見れば、ついついレギーナも「もう!」ともう一度言いながらも微笑むのだった。