修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
 ロルフの腕からそっと離れ、レギーナは

「ところで、わたしのあの勉強らしいもの、どうにかなりません?」

と尋ねたが、それについては

「ならないな」

と即答だ。肩を落とすレギーナに「でも、一ついいことを教えてやるよ」と言うロルフ。

「トイフェル修道院への援助が、ここ10年間ほど中抜きをされていることがわかった。他の修道院も同じようにな。それは、多分、父の後妻に横流しされていた様子でさ。金の管理をしていたやつを捕まえて、これからそこはもう一度精査するんだけどよ……」

「まあ!」

「そういうわけで、正しい金額と、過去の差分を乗せて修道院に送ることになったんでね。すまなかった。過去のあんたに謝ることは出来ないが、でも、この先修道院のことを心配する必要はほとんどなくなったと思っていい」

「そうなんですね……! まあ、まあ、それは嬉しいわ!」

 そう言ってレギーナはくるりと一回転した。

「ロルフ、ありがとう。あの、次のお休みになったら、わたし一度トイフェル修道院に行ってもいいでしょうか……?」

「それなら、一緒に行こう。資金援助の額が変更になった話と、謝罪をしなければいけないからな。各修道院には俺の部下が行くことになっているんだが……一緒に、トイフェル修道院に行って、それから、あんたと俺の結婚のことも話して来よう」

 レギーナは大喜びで「嬉しい!」と言ってロルフに抱き着いた。が、その直後

「ね、あの勉強らしいもの、どうにか……」

ともう一度打診をし直したが、ロルフに「嫌だと思うが、互いに勉強はしないとな。そこは、なんとか飲み込んでくれ」と言われてしまい、不承不承「うう、頑張ります!」と叫んだ。

 メーベルト伯爵家の伯爵夫人に平民がなる、ということについては、誰も特に文句を言うことはなかった。何故ならば、もともと故メーベルト伯爵の側室も、愛妾も、どちらも平民だったからだ。

 こうして、彼らはあっという間に結婚を決めた。そして、訪れたトイフェル修道院で大修道長は、ロルフの自己紹介を聞いて目を白黒させて

「レギーナ!? 本当にあなたはやらかしたんですね!?」

と、大いなる誤解をすることとなる。



 さて、余談になるが植物学の先生と会ったクルトは

「ねえ、僕、いつか植物学の先生と一緒に旅に出たいんだよね。だから、5年後にもそのままおにいちゃんに伯爵になって欲しいんだけど……」

とクラーラに言い出した。

 勿論、クラーラも「クルトは後継者に向いていない」ということは薄々わかっていたし、彼が植物学に興味を持ち、そして、実は高名な先生を呼んでいることを考えれば将来もなんとなく見えてくる。結果、双子は「このままおにいちゃんを伯爵にしようね」と頷き合うことになった。

「本当はみんなおにいちゃんに頑張ってもらいたいんでしょ。だけど、それじゃあおにいちゃんが絶対断るから、逆にクルトのことを口実にして『そう』させたってことよね」

「そうでしょ? だから、あんなに僕が嫌だ嫌だ言っても、無理矢理そうさせる、みたいな感じだったんじゃない?」

 それが答えだ。2人は「おにいちゃんなら、なんとかしてくれるでしょ」と結論づけた。

 彼らの目論見通り、5年後にクルトは置手紙をしてメーベルト伯爵家を勝手に抜け出し、旅に出てしまう。そして、ロルフは晴れて代理ではなく完全に伯爵になり、レギーナも正式に伯爵夫人となってしまう。

 メーベルト伯爵となったロルフは、多くの才は持たなかったものの、堅実な手腕を発揮して、安定をした領地経営を行う。そして、その横に立つ伯爵夫人は、2人の男の子と2人の女の子を産み、いつも笑いが絶えない家庭を築き、領民たちにも慕われていたと言う。





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