修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「いや! いや! わたしごときがどうにかなるとは思っていませんでした! でも! もしかしたら、そのう、もしかしたらそういう可能性だってゼロではないですよね!? それで、それで、もしそうなったら……そのう……示談といいますか……わたしの純潔で修道院にお金が入るなら……そう思って……」

「ううーん……それはよくないな、レギーナ」

 ロルフは苦笑いを見せる。

「修道院の話は修道院の話。あんたの純潔はあんたの話だ。そういう考えはよろしくないと思うぞ」

「その、今思えば……いえ……」

 本当は、やけっぱちだったのだ。婚約破棄をされて……そう言おうとしたが、レギーナはもごもごと尻すぼみになった。

「……いえ、軽率でした……今はもう反省しています……」

「おう。それは、反省した方がいいな。本当に」

 ロルフが本気で心配をしているように声をかけてくれる。大修道院長には啖呵を切ったが、知り合って間もない相手になれば、素直に話を聞けるものなのだろうか。レギーナは消え入りそうな声で「はい……」と頷いた。

 とはいえ、実際彼女はこの「離れ」に配置をされてから、メーベルト伯爵どころか、そもそも本館に住んでいる人々ともほとんど行き来がない。それらは、離れ担当の侍女はみなそうなのだと聞いたので、仕方がないと割り切っている。要するに、彼女の目論見は大失敗だったというわけだ。

「まあ、なんつーかさ。まず、あんたが言ってるようなことは、メーベルト伯爵……様には、ないと思うというか……」

「えっ、そうなんですか!?」

「そもそも、メーベルト伯爵、様は、先月お亡くなりになったんだ」

「……えっ!?」

 それは初耳だと驚くレギーナ。

「知らなくても無理はない。まだ、公には公表していないからなぁ。うん。まあ、あんたが言っているのは間違いなくなくなったメーベルト伯爵、様、の話だと思う。見境なくて、たくさんの愛妾に子供を産ませていたしさ……それはともかく、伯爵様が亡くなったので、慌てて後継者選びを開始しようって話になったんだ」
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