現れたのは聖竜様と予想外の溺愛でした
シャンデリアのきらめきが映ったかのような流れる金髪と、ギラついた赤い瞳。
なまめかしい曲線を惜しげも無く晒すスリットの深いドレスから伸びる足は長く、モデル顔負けの姿勢の良さだ。
薔薇のつぼみにも似た唇はつんと尖って、挑発的に莉亜を見下ろしていた。

「お初にお目にかかります。わたくし、ヴァニティア。この度、新しく聖女のお役目を授かりましたの」

気だるげなハスキーボイスで名乗った女は、胸元で扇を開くと手のひらを撫でるように仰ぐ。すると扇から女の瞳と同じ色をした宝石がまろびでてきて、それを女は掲げ持った。シャンデリアのきらめきを反射して、その宝石はますますまばゆいばかりの光を放つ。

「わたくしが念じると、このように美しいものばかりがこぼれ出てくるのですわ。これはかの有名な第18代目の聖女様がお持ちのご加護、“インフィニート・ジュエリー”の再来と司祭様に伺いましてよ」

ねえ? としなを作った流し目で同意を求められ、司祭は大仰に頷く。
膝をついた彼の頭をヴァニティアが扇げば、シャワーのように色とりどりの宝石が降り注いだ。

「わたくし、この御力でこの国をますます豊かにしていきたく存じますわ」
「有り難き御言葉!」
「そちの献身、嬉しく思うぞ」

すっかり舞台から振り落とされた莉亜の前で、三文芝居は進んでいく。
大仰に頭を下げた司祭と厳しかった顔をだらしなく緩ませた王は、下卑た顔つきで鼻の下を伸ばしている。
聖女の力もさることながら、扇を振るう時に見せつけるように揺れる豊かなふくらみに視線が釘付けなのは、莉亜の目にも明らかだった。
それでもやはり王は美女の前で己が権力を振りかざす絶好の機会を忘れなかったようで、ぽつねんと立ち尽くす莉亜に気づくと、口元を歪ませ、断罪するかのように声を張り上げた。

「今この時より、貴様は聖女の地位を失った。 ヴァニティア嬢こそ、我が国が求めていた聖女である!」

追従する司祭や家臣達の拍手や歓声がぐわんぐわんと反響して、莉亜の頭蓋を揺らす。
更に気分を悪くしながらも、莉亜は冷めた眼差しで舞い上がる男どもと色気を振りまく女を見つめた。

──そもそも私は聖女になりたいなんて言っていない。聖女に祭り上げたのはそっちでしょうが。

何も言わない莉亜に、これ幸いと両脇を衛兵が固める。
冷たい鎧に連行されて、莉亜は王宮から追放──否、解放されたのであった。
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