現れたのは聖竜様と予想外の溺愛でした
「──司祭様、本当に警備を配置せずよろしいのですか?」
「ああ、構わんよ」

塔を離れ、王宮へと戻る司祭は、まとわりついた埃を払いながら弾んだ足取りで衛兵に答える。
埃は風向きのままに衛兵の口に入って、彼は咳き込んだ。

「……っ、いくら使い道のない聖女もどきとはいえ、パーティの前に逃げ出されて、妙な噂でも流されれば事なのでは」
「なあに、逃げ出せればいいがね」
「は、と言いますと」

何も知らぬ風の衛兵に、司祭は振り向いてその顔をまじまじと眺めると、やにわに笑いだした。

「その若さじゃ知らんか。あの壁画は呪われている」
「の、呪い!?」

怯えて声をひっくり返らせた衛兵に、司祭は追撃とばかりに語り出す。

「あの壁画にはいにしえよりの聖竜の怒りが、嘆きが、絶望が塗り込められている。一晩あそこで過ごしてみろ。あの小娘などひとたまりもあるまいて」
「は、はあ……」

鎧から覗く腕をさする衛兵の背を、司祭は力任せに叩いて活を入れる。しかし防具に弾かれた手のひらは真っ赤に腫れた。しかし涙目になりながらも彼はスキップを止めない。

「こんなしけた昔話より目の前の銭だ。今度の聖女は当たりだぞ。金のなる木、いや、宝石のなる女なんざ滅多にお目にかかれやせん」
「確かに、あの技は素晴らしかったです。それにあの服は……目の毒です」
「何が毒だ、目の保養と言うんだ。さて、ワシは司祭として、聖女様を“お導き”せにゃならんからな。これから忙しくなるぞ」

その時、ぴゅうと木枯らしが吹く。しかし鼻息荒い司祭と衛兵の会話など、莉亜に届くはずもなく、悪戯に司祭の豪奢なコートを揺らしただけだった。
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