仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
2.仮面夫婦の始まり
治療費免除の条件として提示されたのは、まさかの結婚だった。
杏葉は開いた口が塞がらない。
「結婚!?どういうこと!?」
「話の流れで何となく察してると思うが、俺の親父はここの院長なんだよ。不本意だが俺は跡取りでいずれはこの病院を継ぐことになる」
「あ、そこは本当なんだ?あの人が院長の弟っていうのも嘘なのかと」
「残念ながらそこは本当なんだよな。で、そろそろ身を固めろって周りがうるせえんだよ。今年で三十四だし、適齢期だろって」
若いと思っていたが、三十四歳と聞くと尚のこと若いなと杏葉は思った。
この年で天才と謳われる名医なのかと思うと、思わず喉が鳴ってしまう。
「しまいには親父が見合いの話まで持って来やがった。ただでさえストーカーとか色々めんどくせえのに」
「ストーカー!?」
「変なプレゼントや手紙が院宛に届いたりとか、家特定されたりとか。そのせいでもう二回は引っ越してる」
「うわあ」
本当にそんなことする人がいるんだな、と背筋に寒気を覚えた。
「かと言って見合いとかしたくないし、けどこのまま独り身なのも身の危険を感じるっつうか。だったらダミーの妻でも作っておくかと思ってな」
「ダミー妻!?それを私にやれってこと!?」
「ああ、ぶっちゃけあんたピッタリだよ。モデルのアズハと聞けば申し分ないし、ストーカーも諦めるかもしれない」
「確かに私みたいな美人が妻だったらストーカーも泣いて逃げるかもしれないけど」
「自分で言うな」
「でも結婚って!」