仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
杏葉はモゴモゴしながら冷や汗をかく。
柚葉は納得いかなさそうに唇を真一文字に結んでいたが、やがて念押しするように尋ねた。
「本当に淡雪先生のことが好きで結婚するの?」
「もちろん!」
そう言いながら背中にダラダラ汗をかいていた。
「淡雪先生のどこが好きなの?」
「えっ」
柚葉はじっ、と杏葉の目を真っ直ぐ見つめる。
「えーーと、顔かな……」
「顔だけ!?」
「いや!すごいお医者様だし!」
「他にないの?その程度で結婚?」
「あっいや……」
柚葉の視線がどんどん白々しくなっていく。かわいい妹から白い目で見られるのは耐えられないと思いつつ、初対面の相手の良いところなんてわからない。
何しろ杏葉は外見と肩書き以外壱護のことを何も知らないのだから。
「柚葉さん、そこまでにしてやってくれるかな。これでも照れてるんだよ」
壱護はにこやかに微笑みながら現れたかと思うと、自然な流れで杏葉の肩を抱いた。
突然のことに杏葉は絶句していた。
「柚葉さんになかなか話せないでいること、ずっと気に病んでいたんだ。どうか許してやってくれないかな」
あまりの演技力に杏葉はポカンと壱護を見つめるしかなかった。
「淡雪先生は姉のどこが好きなんですか?」
「!?」
姉に構わずぶっこむ柚葉に視線を向ける。
「一体何を言い出すの!?」と言わんばかりに。