仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
これからも応援してます!とにこやかに手を振ってファンは立ち去った。その様子を見えなくなるまで見送ってから、アズハはふうと息を吐いてサングラスをかけ直す。
「(危なかったっ!!)」
心臓がドクドクと激しく脈打っているのがはっきりと聞こえる。
決して顔には出さないが、アズハは全身から冷や汗をかいていた。
「(ラブラブ新婚アピはできてるみたいでよかった!グサグサ刺されまくって心臓破裂するかと思ったわ……)」
内心バクバクしているのを必死に隠しながら、アズハは今日の仕事現場へと向かう。
今日の撮影はとあるブライダルの撮影だった。
「おはようございます」
焦っていたことなど微塵も感じさせない柔らかな笑みを浮かべて現場に入る。
「アズハさん、おはようございます!旦那さんはご一緒ではないんですか?」
「主人は仕事で…もう少ししたら来ると思いますわ」
「ご無理を言ってすみません。でも今をときめく美男美女のカリスマ夫婦に是非モデルになっていただきたくて!」
「ええ、とても光栄です」
「遅くなりました」
その人物が姿を現すと、思わず皆が彼の方を振り返った。
スラリとした長身でありながらがっちりとした体型で、脚は長い。芸能人と言っても通用するレベルの美しさなのに、一般人だというのだから驚きだろう。
彼の名は淡雪壱護。
半年前に入籍したばかりのアズハの夫である。