仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜


* * *


「あんた、モデルにはなれても女優には向いてないな」


 柚葉と話を追えて病室から出た途端、壱護は呆れ返った表情を杏葉に向ける。


「妹なんだからもっとマシな言い訳考えとけよ」

「だって手術のことで頭いっぱいだったから……」

「つーか本当のこと言わなくていいのか?」

「言わないよ。本当のこと言ったら柚葉が責任感じるでしょ」

「嘘をついてもか?」


 柚葉に嘘をつくことに抵抗感がないわけではない。
 それでも自分のために姉が好きでもない男との結婚を決めたと知れば、柚葉はきっと気にするだろう。


「あの子には余計なこと考えて欲しくない。今は怪我を治すことだけ考えて欲しいから」


 これは自分のエゴだという自覚は杏葉にはあった。
 それでも柚葉が再び銀盤の上に立ち、美しいパフォーマンスをする姿が見たい。
 きっと柚葉なら再び跳べると信じているからこそ、何でもしたい。


「だって私があの子の一番のファンなんだもの」


 押し付けがましいエゴでもよかった。
 柚葉が夢を叶えることが杏葉にとっての夢でもあるのだから。


「……ふうん」

「何よ、その返事」

「別に」

「何それ。とにかく、そういうわけだから柚葉には言わないでね。バレないようにしてよ?」

「それは俺の台詞だな。表向きは恋愛結婚ってことにするから、くれぐれもボロ出すなよ?奥サマ」

「わかってるよ!」


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