仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
ミネラルウォーターを飲んで一息ついてから、杏葉はハタと気づいた。
「……ねぇ、そういえば一部屋しかないんだけど」
フロントでも声をかけられ、にこやかな笑みを貼り付けたまま部屋のカードキーを渡されたので気づかなかった。
二人が泊まる部屋は部屋にプール付きのロイヤルスイートルーム。開放感のある広々としたプレシャスな部屋は、セレブ夫婦が泊まるに相応しい。
だが問題なのは、ベッドがキングサイズのベッド一つだけだということだ。
「ベッドも一つなんだけど」
「そりゃそうだろ。ここはカップル、夫婦専用のロイヤルスイートだからな」
「!?」
杏葉は改めてベッドルームを見やる。天蓋付きの広いベッドは二人で並んでもまだまだ余裕がある。
全体的に純白とゴールドを基調としたシンプルながら高級感のあるベッドルームだが、カップル専用と聞くと途端に妙な色気を感じてしまう。
杏葉は真っ赤になって上擦った声をあげた。
「ななな、なんで!?」
「親が予約したんだよ。子づくり新婚旅行だからじゃないか」
「ファッ!?」
子づくりという言葉に心臓が爆発しそうになった。
「(つ、つまり私壱護と一緒に寝るの!?)」
男性経験ゼロの杏葉が、かりそめの夫と言えど男性とベッドを共にするなんてハードルが高すぎる。