仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
途端に体温が急上昇する杏葉に対し、壱護は至って冷静だった。何とか心臓の音が聞こえないように、やたらと部屋の中を行ったり来たりする杏葉を見てプッと噴き出す。
「意識しすぎだろ」
「いいい意識なんてしてないけどっ!?」
「動揺しすぎ。如何にも恋多き女ですって顔したアズハはどこ行ったんだよ」
「そうよ!あ、アズハは超モテるんだから!この程度で動揺するわけないでしょ?」
「声上擦ってるぞ」
「う、うるさいっ!」
「心配しなくても、何もしない」
壱護はキッパリと言い切る。
「別にあんた相手にどうしようとか思わないしな」
「なっ」
それはそれでカチンときた。
これでも杏葉は男性にモテてきた自覚はある。モデルを始める前から美人だと騒がれ、通りすがるだけで男は皆振り向いたものだ。
柚葉最優先だったためまともに恋愛せずにきてしまったが、女としてのプライドはある。
「アズハを目の前にして何もしないとか正気なの!?」
「自分で言うなよ」
「それでも男!?」
はあ、と壱護はやれやれという溜息を漏らす。
「生憎俺は女に不自由したことはないんでね」
「なっ!!」
「せめて色っぽく迫れるようになってから言え」
そう言って壱護はスーツケースを引いてリビングから出て行った。
杏葉はその場にポツンと取り残される。
そしてじわじわと怒りが湧いてきた。