仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
違うのに。そんなつもりじゃなかったのに。
いくら杏葉が否定しようと、彼女は杏葉に見向きもしなかった。
それから親友の好きな人を奪った性悪女だと陰口を叩かれた。
男子の方には「人の気持ち弄びやがって」と悪態をつかれた。
皆杏葉の外見ばかりを見て中身を見ようとはしない。
本当は傷ついていたことになんて気づいてくれない。そもそも知ろうとすら思わない。
だったら誰にも知られたくない。
そんな寂しさを押し殺し、杏葉は仮面を被る。
アズハという強くて美しい完璧な女性という仮面を被るのだ。
誰もが見惚れ、恋焦がれるのがアズハなのだ。
アズハであればある程、本当の自分とのギャップを感じて本当の自分を知られるのが怖かった。
アズハであれば完璧なはずなのに、興味を示そうとしない壱護。本当の自分を覆い隠すための完璧な鉄仮面なのに、あの男は少しも靡かない。
それが何だか悔しかった。
無駄に高くなってしまったプライドが、杏葉をおかしな方向へと滾らせる。
「(女に不自由しないって何それ自慢?大層おモテになってきたんでしょうけど、私だって…いやアズハだって良い女だと思うけど!?)」
かりそめといえど一応妻なのだ。
なのにあそこまでバッサリ切られると、人気モデルとして黙っていられない。
「見てなさいよ壱護!私の魅力に酔いしれて降参させてやるんだから!」