仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜


* * *


 アズハこと本名・香椎(かしい)杏葉(あずは)には十歳下の妹・柚葉(ゆずは)がいる。
 柚葉は十六歳にしてフィギュアスケート界の新星と言われる期待の選手だ。

 十五歳で四回転ジャンプに成功し、ジュニアの世界大会で優勝。その年の全日本選手権では二位に入り、世界選手権では銅メダルを獲得した。
 日本フィギュアスケートを背負う次世代のエースとして期待されていたが、シニアデビューを控えていた直前、練習中に右足を骨折する大怪我を負ってしまう。
 それも選手生命を絶たれるかもしれない程の大変な大怪我だった。

 来年のオリンピック出場を目標にしていた柚葉にとって、耐え難い挫折であった。
 仮に手術が成功したとして、選手として復帰できるかは五分五分。そこからオリンピックに間に合わせられるかどうかは、更に確率が下がる。


「もう無理だよ!せっかく四回転跳べるようになったのに……っ」


 病室で柚葉は毎日のように泣いていた。


「柚葉、希望を捨てないで。きっと治るよ」

「治っても意味ないよ!滑れるようにならなきゃ意味ないっ」

「今までだって頑張ってきたじゃない。リハビリ頑張ればきっと……」

「頑張ってもダメかもしれないじゃん!!」


 頭から布団を被り、泣きじゃくる柚葉にこれ以上なんて言葉をかけていいのか、杏葉はわからなかった。


「(お父さんとお母さんが生きていたら、なんて励ましたんだろう……)」


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