仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
何もなかったかのような顔をされるのが気に食わないと思いつつ、ときめいて仕方ない。
これはマズイ、と杏葉の中で警報が鳴っていた。
「最後に写真撮っとくか」
「えっ?あ、うん」
壱護はスマホのカメラを構え、空いている手で杏葉の肩に手を回す。
ピッタリと密着する形になった。
「なんか近くない!?」
「は?ラブラブツーショットがいいって言ったのあんただろ」
「(そうだった……基本的に夫婦のツーショはラブラブに見えなきゃダメなんだ)」
ゴホンと咳払いをし、カメラに向かって笑顔を向ける。
「何でもないから撮ってちょうだい」
「何なんだよ」
呆れながら壱護はシャッターを押した。
杏葉は左肩に熱を感じながら、アズハらしい女神の微笑みを浮かべる。
カシャリという音がしてホッと胸を撫で下ろした直後――、
「っ!?」
「……ふ、変な顔」
頬にチュッというリップ音がしたと思ったら、目の前には悪戯な笑顔を浮かべる壱護の美麗な顔が至近距離にあった。
杏葉は何が起きたのかわからなかった。
「ごちそうさま」
「〜〜っ、はあっ!?」
杏葉の中の警報がグワングワンと鳴り響く。
壱護は利害関係の元に結ばれたかりそめの夫なのだ。
モテる壱護はきっと自分のことを揶揄っているだけ。反応を見て面白がっているだけなのだろう。
そして、アズハはこんなことで動じる女ではない。
そう聞かせるけど、無理だった。
「……っっ」
仮面夫婦に本当の恋愛は不要なはずなのに、杏葉の胸のときめきは高まっていく一方だった。