仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
柚葉のことで淡雪総合病院に何度も足を運ぶようになり、外科医としての壱護の姿も見えるようになってきた。
院内だけでなく患者からの信頼と人気も高いのだという。
患者だったスポーツ選手の中には、復帰して賞を獲ると壱護に挨拶に来る人もいるらしい。
「淡雪先生、もう二度と来るなって言うくせにものすごく嬉しそうなんですよ」
担当看護師がそんな風に笑っていた。
「あの淡雪先生の奥さんは誰なんだろうってみんなで噂してたけど、アズハさんならねぇ。ナースたちみんな言ってます、あんなにお似合いの夫婦じゃ完全敗北だって」
「あら、そんな。恐れ多いですわ」
コロコロと笑う杏葉だったが、内心では冷や汗ものだった。
万が一仮面夫婦などとバレたら、色んな意味で一貫の終わりだ。
これは夫婦として仲睦まじい姿を見せるため。
忙しい夫のためにお弁当を作って届ける健気な妻だとアピールするため。
決して寂しくて会いたいわけではない、と杏葉は謎の言い訳をしていた。
「ダーリン♡お弁当を作ってきたわ♡」
「おま……」
「最近ずっと忙しいでしょう?体を壊さないか心配なの」
わざとらしく人がいるところで見せつける杏葉。
壱護は一瞬「何してるんだ」と言いたげな表情になったが、すぐに笑顔を貼り付ける。
「ありがとう、杏葉。屋上で食べようか」
「ええ」
連れ立って屋上へ向かう夫婦の背後には、周囲からは感嘆と羨ましさを馴染ませる声が聞こえていた。