仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
今この場に自分たちしかいないことが、こんなにも残念に思うことはないだろう。
「(今ならアズハが意外にも家庭的で気の利く妻だってアピールができたのに!!)」
もちろん、お弁当の写真は撮ってSNSにアップ済みである。
「あんたは食わないのか?」
「え?」
「まさか本当に俺の弁当だけ作ってきたのか?」
「あ、ああ、一応自分のもあるけど」
そう言って杏葉は壱護の弁当箱の三分の一程しかない小さな弁当箱を取り出す。
「それだけ!?」
「え?うん」
「ハワイではもう少し食ってただろ」
「せっかくハワイまで来たから普通に食べてたけど、いつもはこれくらいだよ」
パカっと開けた中には豆腐ハンバーグが一つ、プチトマトしか入っていない。ハワイで思う存分食べたので、帰国して以降はなるべく抑えるようにしている。
「バカか、倒れるぞ」
「大丈夫だよ」
「ずっとこうなのか?」
「そうだけど……」
「俺も大概人のこと言えないが……今日は仕事ないのか?」
「あ、そうね。午前中に撮影があったけどこの後はオフ」
「今夜は俺が飯を作る」
「えっ!?」
予想外の壱護の言葉に思わず大声をあげてしまう。
「な、なんで!?」
「あんたの好きにさせておいたら、いつ倒れるかわからないだろ。モデルの体型維持が不可欠なのはわかるけど、医者として見過ごしておけるか」