仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜
「ご、ごめん……」
「別にいいけど、これからはたまに夕飯作ってやるよ」
「えっ!?でも壱護、忙しいんでしょ?」
「緊急のオペで駆り出されることはあるけど、帰れる時はなるべく帰る。今日の弁当、マジで美味かったからお礼」
「え……」
胸の奥からじんわりと温かくなっていくのを感じた。
素直にとても嬉しかった。
「じゃあ、私も作る!壱護が忙しい時は私が作るよ」
「弁当のお礼って言ったのに」
「じゃあその夕飯のお礼でいいじゃない!」
「プッ、お礼のお礼ってなんだよ」
壱護が楽しそうに笑う度に、杏葉の心がキュッと締め付けられる。
笑ってくれることが嬉しい。
笑いかけてくれることが嬉しい。
なのに何故か胸が締め付けられるように苦しくて、何故か泣きたいような気持ちにもなる。
壱護と過ごす今の時間を誰にも共有したくない。
つい数分前まで「夫が美容と健康に気を遣ったヘルシーな手料理を振る舞ってくれました」とSNSに投稿するつもりでいたのに、誰にも見せたくないと思ってしまった。
「(壱護のことを私だけが独り占めしたい)」
柑奈が知ったら怒るだろうなぁと思った。
何枚も美味しそうな写真は撮ったけど、これは自分のものだけにしたい。
「(私、壱護のこと……)」
初恋もまだの初心な杏葉には手の負えない感情だった。
よりにもよってかりそめの夫に恋をしてしまうなんて。